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21.09.17

風間逸郎教授と庄子美智子助教が、病態生理にもとづき、高カリウム血症に対する看護的介入方法を発見

看護学群に所属する風間 逸郎教授は、病態生理学・内科学・一般生理学を専門分野としております。このたび、成人看護学分野・庄子美智子助教と共に、高齢者や腎不全患者に合併しやすい「高カリウム血症の治療・予防法」について、新たな知見を発見しました。これまで国内外で明らかにされてきた報告をもとに、発症予防や患者へのケアなど看護の臨床現場で実践できる内容を考察し、第66回日本透析医学会学術集会・総会および第51回日本腎臓学会東部学術集会で発表、和文雑誌にも掲載されました。

本研究は、看護学群・庄子美智子助教が、“高カリウム血症に対する看護的介入方法”をテーマとして、主に過去の文献検討による研究を行うにあたって風間教授が研究指導・共同解析を行いまとめたものです。今回の学会発表および和文雑誌に発表予定の論文では、庄子助教が筆頭著者(または演者)、風間教授が責任著者(または演者)となっています。

在宅医療の現場で、腎不全に伴う“高カリウム血症”の高齢患者が増加しています

カリウムは、栄養素として欠かすことのできない「必須ミネラル」の一つと言われており、高血圧の大きな要因である塩分(ナトリウム)の排出を促す作用があります。そのため血圧を正常に保つ効果があるといわれており、切り干し大根やドライバナナ、刻み昆布などに豊富に含まれている栄養分のひとつとしてご存じの方も多いと思います。

一方で、例えば腎臓の働きが低下するなどして、カリウムを十分に排泄することができないと、カリウムが体内に蓄積し血液中のカリウム濃度が高くなる“高カリウム血症”を引き起こす場合があります。この“高カリウム血症”は、全身の筋力低下や脱力といった症状だけではなく、重篤になると、心室頻拍や心室細動などの致死的な不整脈が誘発されるため、緊急の治療が必要になります。近年では、糖尿病患者数の増加に伴って、慢性腎臓病を合併する高齢者の数は年々増加しており、高齢患者を主な対象とする在宅医療の現場においても、腎不全に伴う高カリウム血症の患者を看る機会が多くなってきました。

腎臓だけではなく“大腸”からカリウム排泄が行われるケースに着目

例のひとつとして、末期腎不全では、腎臓からのカリウムの排泄低下を補うべく、腸管からのカリウムの排泄が増加するケースがあります。近年ではそのメカニズムとして、大腸管腔側に発現するカリウムチャネル“BKチャネル”(Big K+ Channel; large conductance calcium-activated potassium channel, Maxi-K, Kca1.1)の関与が明らかになってきました。このBKチャネルの多くは、脳、血管、膀胱に発現し、神経や平滑筋の興奮をつかさどることが知られていますが、腎臓や大腸においても発現することが明らかになっており、尿中や便中へカリウムを排泄する役割を担うことが分かってきました。

BKチャネルをターゲットとした“高カリウム血症”の予防・治療の可能性

腎臓からのカリウム排泄は主に集合管で行われており、管腔側に発現するカリウムチャネル“ROMKチャネル”(Renal Outer-Medullary K+ channel, Kir 1.1)が中心的な役割を担っています。大腸に発現するBKチャネルとは構造が異なりますが、どちらも、尿細“管”または消化“管”という“管腔”の表面に存在し、はたらきや性質がとてもよく似ています。このROMKチャネルのはたらきは、レニン・アンギオテンシン・アルドステロンというホルモンによって直接的に刺激されるほか、管腔内を流れる濾液流量の増加によっても、活発になることが分かっています。これは、濾液が速く流れ去るほど、濾液中のカリウム濃度が低くなることによります。その結果、カリウムが尿中に排泄されやすくなるのです。

図:下剤やプロバイオティクスの効果

大腸BKチャネルも同様に、大腸管腔内を流れる“濾液流量”つまり“便通の増加”によって活性化されると仮定すれば、大腸管腔内へのカリウム排泄を増加させることにより、高カリウム血症を改善させられる可能性が高いといえます(図)。

大腸管腔内への排泄を増加させること=下剤の内服やプロバイオティクスの摂取が、便中カリウム濃度を低下させる可能性があると言えます。このような病態生理にもとづけば、腎不全の患者に対し、下剤などを用いて便通を改善させ、ヨーグルト・乳製品などのプロバイオティクスや、穀類・きのこ・海藻・こんにゃくなど食物繊維が豊富な食べ物の摂取を積極的にすすめることは、高カリウム血症の予防・治療にもなりうると考えられます。

看護の現場で実践できる高カリウム血症の予防・治療について

一方で、食事からの過剰なカリウム摂取も、高カリウム血症を引きおこす重要な要因であるため、患者の日々の食生活状況を確認することも大切です。看護師は、医療に関する専門的知識と生活の視点からアセスメントすることにより、個々の患者に合わせた生活指導・食事指導を行うことができます。食事内容については、栄養士や調理師など他の職種と連携し、カリウム含有量の少ない食材を選択したり、カリウム摂取量を減らすための調理方法を工夫したりすることもできます。また、生産者(農家)や食産業学に携わる研究者と連携し、カリウム含有量の少ない野菜・果物の生産・開発に関わっていくというやり方もあります。

高齢社会の進展とともに腎不全患者の数は増加しており、在宅医療の現場など、必ずしも医療機関ではないところで、高カリウム血症に対処していかなくてはならない場面も増えてきています。看護師が病態生理をしっかりと理解したうえで、医療と生活双方の視点から患者を看ていくことの必要性が増しているといえます。

風間教授は「今後も、臨床から発想した研究の成果を再び臨床に還元することを目標とし、日々研究に取り組んでまいります。学生さんでも他学群の方でも、一緒に研究をやってみたい人は、是非ご一報ください。在学中だけでも“研究者”になってみたい!学会で発表してみたい!論文の著者になってみたい!という人でも構いません。いつでもスタンバイしてお待ちしております」とのメッセージを寄せました。
( kazamai(a)myu.ac.jp メールの際は(a)を@に変えてご連絡願います)


研究報告の詳細について

なお、本研究報告は、「看護技術」(メヂカルフレンド社)10月増刊号に掲載予定です。

また、風間教授が最近発表した医学・看護学に関連する主な研究成果については、以下の和文・英文雑誌に掲載されています。(いずれも風間教授が責任著者)


研究者プロフィール

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