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23.06.20

事業構想学群 土岐謙次教授による「乾漆カード及びその製造方法」が特許を取得しました

事業構想学群土岐謙次教授は、日本の伝統工芸である「漆」と、CADをはじめとするデジタルデザイン技術の融合による、新たな工芸・アートワーク・デザインを研究しています。東京藝術大学金田充弘教授とこれまで取り組んできた「構造乾漆」の一部技術である「カード及びその製造方法」について、特許第7256561号を取得しましたのでお知らせします。

漆で「塗る」のではなく、漆で「つくる」
古来の技術である「乾漆」を、最新技術で次代へ【構造乾漆】

漆器や伝統建築、武士の甲冑や華麗な装飾が施された工芸品などに「漆」が広く用いられてきたことは多く知られています。この「漆」、実は木の樹液が原材料であり、塗料として利用したのが「漆」の技術です。さらに、この硬化する性質を活かした造形技法として「乾漆(かんしつ)」があります。これは、麻布や和紙を漆で固め造形する技法で、国内では奈良時代から平安時代中頃まで彫像製作を中心に用いられました。しかし「乾漆」は天平時代以降、技術的断絶があり、現代まで「乾漆」そのものが主構造となり自立し、さらに荷重を支えるような家具や調度品はほとんど作られていません。「乾漆」ははるか千数百年も先駆けて実現された技法ですが、繊維骨材を用いて母材を強化するという点において最先端の素材であるFRP(Fiber-Reinforced Plastic/ 繊維強化プラスチック)と原理的に同じです。

電子的な通信機能を持った乾漆製のシートを制作
伝統的に培われた漆を先進的でクールな自然素材として、現代の日常に

土岐教授らはこれまで、その優れた特性に着目し「乾漆」の構造材としての力学的物性を検証、最先端素材の繊維補強樹脂の一種と捉え、構造的・デザイン的可能性を明らかにする取り組みを行ってきました。研究チームが今回開発した技術は、非接触・接触を問わず電子的な通信機能を持った乾漆製のシートを制作する方法です。

乾漆カードにスマートフォン等の端末をかざすと電子情報を取得できる

私たちが一般に利用しているクレジットカード等の多くはプラスチック素材が利用されていますが、この素材に乾漆を利用することでプラスチックを代替する手段の1つとなり得ることが大きな魅力となります。具体的な展開のひとつとして「乾漆カード」を日本最大級のファッションとデザインの祭典「ROOMS」に出展しており、これらの取り組みは、2019年には環境省プラスチック・スマートの取り組みとしても紹介されており、世界的な海洋プラスチック問題の解決に向けた取り組みとしても注目されています。

伝統的に培われた漆を先進的でクールな自然素材として、現代の日常の暮らし中で様々な製品に使える可能性が広がっています。

土岐教授は「私たちは、今後もこの技術を利用して、地球環境に負担の少ない天然素材のものづくりの実社会での事例を増やす取り組みを続けていきます。産業に向かって届けたいメッセージは、漆で『塗る』のではなく、漆で『つくり』ませんか、ということです。これから天然素材で新しいものづくりをしたい人に、漆でつくる仕組みと性能をお見せしたい。そのうえで、何をつくるか、ということを皆さんに考えてもらえたらと思います。」とコメントしています。

研究概要

本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業基盤研究(A)JSPS科研費19H00796の助成を受けて実施したものです。

  • 研究タイトル:「乾漆を現代のものづくり技術として革新する研究」
  • 研究代表者:土岐 謙次(宮城大学事業構想学群教授)
  • 研究分担者:金田 充弘(東京藝術大学美術学部教授)

研究者プロフィール

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