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新着情報

24.11.22

伊東豊雄建築設計事務所・土岐謙次教授ら構造乾漆チーム、世界初の漆を構造とした建築「URUSHI Shell」を韓国光州にて一般公開

事業構想学群土岐謙次教授は、日本の伝統工芸である「漆」と、CADをはじめとするデジタルデザイン技術の融合による、新たな工芸・アートワーク・デザインを研究しています。また、東京藝術大学建築科金田充弘教授とともに、古来の技術である「乾漆」を、最新技術で次代へつなぐ「構造乾漆」の取り組みを行っています。このたび、伊東豊雄建築設計事務所・東京藝術大学・宮城大学・ARUPが共同で計画・設計・制作した「URUSHI Shell」が、韓国光州にて竣工しましたのでお知らせいたします。漆を構造体に用いたフォリーとしては、世界で初めての事例となります。

提供:光州ビエンナーレ財団、写真: Kim Hyunsu
Courtesy of Gwangju Biennale Foundation. Photo by Kim Hyunsu

漆で「塗る」のではなく、漆で「つくる」
古来の技術である「乾漆」を、最新技術で次代へ【構造乾漆】

漆器や伝統建築、武士の甲冑や華麗な装飾が施された工芸品などに「漆」が広く用いられてきたことは多く知られています。この「漆」、実は木の樹液が原材料であり、塗料として利用したのが「漆」の技術です。さらに、この硬化する性質を活かした造形技法として「乾漆(かんしつ)」があります。これは、麻布や和紙を漆で固め造形する技法で、国内では奈良時代から平安時代中頃まで彫像製作を中心に用いられました。しかし「乾漆」は天平時代以降、技術的断絶があり、現代まで「乾漆」そのものが主構造となり自立し、さらに荷重を支えるような家具や調度品はほとんど作られていません。「乾漆」ははるか千数百年も先駆けて実現された技法ですが、繊維骨材を用いて母材を強化するという点において最先端の素材であるFRP(Fiber-Reinforced Plastic/ 繊維強化プラスチック)と原理的に同じです。土岐教授らはこれまで、その優れた特性に着目し「乾漆」の構造材としての力学的物性を検証、最先端素材の繊維補強樹脂の一種と捉え、構造的・デザイン的可能性を明らかにする取り組みを行ってきました。

自然素材であり、愛着をもって接することができる構造材としての「漆」
次世代の建築のひとつの可能性としての「URUSHI Shell」

今回のプロジェクトは、韓国・光州ビエンナーレ財団が主催する第5回光州フォリーの一環として行われました。第5回光州フォリーのテーマは「Circular Economy」、土岐教授ら設計チームは、漆の高い耐久性、生産にあたって二酸化炭素を排出しない点、また修復しながら長く維持することのできる可能性などに着目し、世界で初めて漆を建築の構造材として利用するフォリー「URUSHI Shell」を提案。2023年度から試行錯誤を重ね、素材研究・施工方法ともゼロから一つ一つ組み立てる実験的な取り組みとなりました。※下記写真は試作・検証の一連の様子を写したものです。

土岐謙次教授のコメント

阿修羅像にヒントを得て、15年前に乾漆で構造物を作る研究を始めて、これまで椅子やテーブルを制作してきました。4年前の研究紹介の映像で「将来的には乾漆製の建築なども」と語っていた際には夢物語だと思っていましたが、チャンスというのは突然訪れるものとつくづく実感しています。このたび、建築家伊東豊雄氏の設計で恐らく世界初となる乾漆構造による建築が竣工しました。一部に化学合成接着剤を使用しますが、構造そのものは漆と麻布と紙(CNF)で出来ています。韓国・光州ビエンナーレの関連企画である光州フォリープロジェクトの一つとして、昨年6月以来準備を進めてきました。

このプロジェクトでは乾漆のマテリアルデザインと制作および工法の開発を担当しています。研究データや経験から建築スケールの構造を乾漆で実現できることには自信がありましたが、建築資材として難燃性や耐候性を向上させることは乾漆にとって今回大きな挑戦でした。難燃性については企業の協賛を得て一定の性能向上が得られました。これからより精密な実験・評価が必要ですが、将来的には漆を使った文化財の難燃性向上が期待できます。紫外線耐性が弱点と言われる漆ですが、皇居の坂下門や日光東照宮をはじめ、漆は各地の文化財の外装に使われています。

現代の超耐候性の化学塗料を基準に漆の耐候性が「低い」と評価されることは致し方ありませんが、一方で漆は継続的な塗り重ねにより経年で塗膜が強化されていくという「高い」サスティナビリティーを備えています。松本城では毎年再塗装が行われることで、漆の需要維持にも繋がっていることなど、自然素材であることも合わせて評価するという視点も大切なのではないかと思います。今回、漆については事業者から耐候性を高めた製品の提供を受け、促進耐候性試験を経て最低2年間はメンテナンスが不要ということが分かりました。漆の難燃性・耐候性にとって、いずれも今後の漆の屋外活用の実験場が出来たことには大きな意義があると思います。

今回使用された漆は約300kgに及びます。漆の国内消費量が令和4(2022)年は25.6トンであることを考えると、これは約1.2%に相当します。文化財保存修復需要の年平均2.2トンに対しては約14%にのぼります。乾漆の建築が如何に多くの漆を必要とするかということが分かる一方で、いかに産業としての漆の需要が小さいものであるかということに改めて気付かされます。そして日本はその需要を賄うために90%以上を中国からの輸入に依存しています。

今回の乾漆建築は漆工芸としては法外な量の漆を使う尋常ならぬプロジェクトですが、こうした漆産業の現状と自然素材としての大きな可能性をより広い分野の多くの人々に向けて啓発する契機になることを期待しています。

建築概要

プロジェクト名称 URUSHI Shell
所在地 韓国光州広域市東区東明路20番-40
規模・構造等 敷地面積:167.60㎡、建築面積:33.77㎡、階数:地上1階、構造:乾漆造
主用途 休憩所
設計期間 2022年11月~2023年10月
工期 2024年4月~2024年10月
設計統括 伊東豊雄建築設計事務所(担当:高塚順旭、Qin Ye Chen)
共同設計 宮城大学、東京藝術大学
構造 ARUP
協力 旭ビルウォール株式会社、帝人株式会社
施工(建築) RiSHIYAGI
施行(乾漆作成) 郷自然工房
公式サイト https://gwangjufolly5.org/en/process/urushishell
問い合わせ先 伊東豊雄建築設計事務所
木下栄理子[kinoshita@toyo-ito.co.jp]、太田由真[ota@toyo-ito.co.jp]

研究者プロフィール

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