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22.05.16

気管支喘息に対する水泳の有用性を明らかに /看護学群・風間逸郎教授が卒業研究の学生(卒業生)と報告

看護学群に所属する風間 逸郎教授は、病態生理学・内科学・一般生理学を専門分野としており、内科の医師として、現在も患者さんの診療に携わっています。このたび、「気管支喘息に対する水泳の効果」について、これまで主に海外で明らかにされてきた重要な知見をまとめ上げたうえで、その有用性や、実際に看護の臨床現場で実践できる内容を考察、和文雑誌に発表しました。

本研究は、2018年に看護学群学生(佐藤真央さん:当時4年生=平成30年度卒、現在は看護師として働いています。)が、気管支喘息と水泳をテーマとして、主に過去の文献検討による卒業研究を行うにあたり、風間教授がその指導を行いまとめたものです。今回発表した論文は、佐藤さんが筆頭著者、風間教授が責任著者となっています。

現代人に増えている気管支喘息-治療の中心となる薬物療法と生活指導

気管支喘息とは、肺に通じる空気の通り道である気道の一部、気管支が狭くなることで、息を吸い込みづらく、また吐き出しにくくなる病気です。季節の変わり目になると咳がひどくなったり、ゼーゼー・ヒューヒューといった喘鳴の発作が出現したりします。気管支喘息の患者さんは、もともと気道に慢性的な炎症があることが分かってきましたが、そこに埃や花粉などアレルゲンへの曝露、大気汚染物質の吸入、呼吸器感染症への罹患、運動や過換気、喫煙、気候の変化、薬物、食品やその添加物、煙や臭気などの刺激物質、強い情動負荷やストレスなどなどが加わることにより、発作が誘発されます。
気管支喘息に対する治療として、発作時には気道を広げるための急性期治療が、非発作時には炎症を取り除くための慢性期治療がそれぞれ行われます。どちらも吸入による薬物療法が主体で、発作時には気管拡張薬が、非発作時には吸入ステロイド薬がそれぞれ用いられます。気管支喘息の非発作時には症状が無いため、患者さんはついつい、薬を使うのを止めてしまうケースが多くあり、まずは長期的な服薬指導が非常に重要です。それに加えて、発作を誘発する環境因子を予防的に除去できるか、また、アレルギー体質がいかに改善できるかといった“生活指導”も重要となることは言うまでもありません。

生活指導として“水泳”を勧めることは良い?効果がない?

気管支喘息患者に対する生活指導の一環として、有酸素運動の一つである水泳を勧める事例は多くあります。ある市町村では、水泳が気管支喘息に良いという考えのもと、気管支喘息の症状悪化予防と健康の回復を図るため、小児喘息の患児向けに水泳教室を実施しています。その一方で、小児科医のなかには、水泳がかえって気管支喘息の悪化を招く可能性があることを指摘する声もあります。生活指導としての“水泳”を勧めることが良いのか悪いのか、これを明らかにした文献は少なく、わが国では一定のコンセンサスが得られていないのが現状です。

一方で、海外を中心に、気管支喘息に対する水泳の影響については数多くの研究がなされています。これらの文献検討を行うことで気管支喘息に対する水泳の有用性を明らかにすることが今回の目的です。

水泳による呼吸機能の改善、ある程度の年齢や体格が必要か/海外の文献による検討

今回の文献検討では、主に小児の気管支喘息の症状に水泳が及ぼす影響について調べたいくつかの研究の結果をまとめました。いずれの研究においても、気管支喘息の罹患率、運動後の喘鳴発作、薬の使用頻度、発作により学校を欠席した回数が、有意に減少していました。気管支喘息の患者さんでは、喘鳴発作などの症状が重篤でなくても、検査により“呼吸機能”(1秒率やピークフロー値:息を吐き出せる量や速さの指標)に異常をきたしている場合があります。そこで、これらの“呼吸機能”に対する水泳の影響について調べた別の2つの研究の結果をまとめたところ、一方では改善効果あったにもかかわらず、もう一方では効果なし、という結果が出ていました。

佐藤さんは、この結果の違いに疑問を抱き、これら2つの研究における被験者の基礎データと、水泳レッスンによる介入前の呼吸機能の平均値を比較しました。その結果、呼吸機能の改善がみられた患児の方の年齢が高く、身長・体重ともに大きいことを発見しました。このことから、水泳が気管支喘息の患児における呼吸機能を改善させるためには、ある程度以上の年齢や体格が必要であるのではないかと考えました。

気管支喘息の患児は、運動した直後に発作が出ることを恐れ、運動を回避してしまうケースが多くあります。しかし、今回の文献検討の結果、水泳が発作を起こりにくくし、長期的にみれば心肺機能を向上させ、呼吸機能を改善させることも明らかになりました。

気管支喘息患者の生活指導のなかで看護師が実践できること

これまで、気管支喘息患者に対する看護では、アレルゲンとなる食品や薬物、刺激物質を回避したり、喫煙やアルコールなど多くのものを禁止・減量したりするなど、いわゆる“消極的でネガティブな”生活指導が中心になっていました。これに対し、水泳を勧めることは、より“積極的でポジティブな”生活指導であり、患者さんにとっても受け入れやすいと考えられます。例えば、今回の研究結果にもとづいて、

  1. 同じ学童期の患児であっても、年齢や体格がある程度以上になってから水泳を勧める
  2. 運動した後に発作が起きやすい患児に対しては、水泳を開始する前に、気管拡張薬の予防的吸入を勧める
  3. 気管支喘息の重症度やコントロール状況を把握したうえで、それに応じて水泳の強度(内容、時間、回数)を調節する

など、患者にとって最も身近な存在である看護師だからこそ可能な、より具体的な介入ができると思われます。

※一番右が佐藤さんです。

風間教授は今後も、臨床から発想した研究の成果を再び臨床に還元することを目標とし、日々研究に取り組んでまいります。学生さんでも教職員の方でも、風間教授と一緒に研究をやってみたい人(在学中だけでも“研究者”になってみたい人!)は、是非ご一報ください。いつでもスタンバイしてお待ちしております。
( kazamai(a)myu.ac.jp メールの際は(a)を@に変えてご連絡願います)

研究報告の詳細について

なお、本研究報告は、5月20日付けで看護技術(メヂカルフレンド社)に研究レポート論文として掲載されています。また、風間教授による最近の研究成果、および、これまで本学看護学群の学生を指導しながら発表してきた研究成果については、以下の和文・英文雑誌に掲載されています(いずれも風間教授がCorresponding author)。

『看護技術』2022年6月号 Vol.68 No7 通巻989号

『看護技術』2022年6月号Vol.68 No7 通巻989号

抑制に頼らない看護―急性期医療での取り組み―、編集協力/小藤幹恵。がん患者の妊孕性温存療法、執筆/大友陽子

  • 発行元:メヂカルフレンド社
  • 発行年月日:2022年5月20日
  • 雑誌コード:401060

※看護学群佐藤真央、風間逸郎(看護学群教授)が、研究レポート「気管支喘息患者に対する水泳の有用性―エビデンスに基づく看護での実践指導へ―」を執筆。
  

研究者プロフィール

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