新着情報
22.04.25
風間逸郎教授と佐藤泰啓助教が、統合失調症に対する新規治療法の可能性を明らかに/看護学群
看護学群に所属する風間逸郎教授は、病態生理学・内科学・一般生理学を専門分野としており、主要な研究のひとつとして「“慢性炎症性疾患”の病態生理における、リンパ球カリウムチャネル(Kv1.3)の関与」をテーマとした研究を行ってきました。また、内科の医師として、現在も患者さんの診療に携わっています。このたび、地域看護学分野・佐藤泰啓助教と共に、統合失調症の新たな病態メカニズムについて、近年、世界で明らかにされてきた知見を纏め上げたうえで、自身のこれまでの基礎研究成果を交え、それに対する新規治療法の可能性についての重要な知見を英文雑誌に報告しました。
本報告内容については、4月21日付けで, 英文雑誌(Drug Discoveries & Therapeutics)にAdvance Publicationとして掲載されました。本研究は、看護学群・佐藤泰啓助教が、“統合失調症における新たな病態メカニズム”をテーマとして、主に過去の文献検討による研究を行うにあたって風間教授が研究指導を行いまとめたものです。今回、英文雑誌に発表した論文は、佐藤助教が筆頭著者、風間教授が責任著者となっています。 |
精神疾患である“統合失調症”、体の中で炎症反応が起きている可能性
佐藤助教が、保健師として患者と接する中で気がつく
統合失調症とは、自分の考えや気持ちがまとまらなくなってしまう状態が続く精神疾患で、うつ病とともに、患者数の多い病気です。思春期から40歳くらいまでの間に発病することが多く、幻覚や妄想のほか、意欲が低下したり、感情表現が少なくなったりといった症状が出現します。生涯で100人のちの1人がかかる可能性があるといわれており、決してまれな病気ではありません。精神疾患をかかえる患者さんたちが地域で暮らし、社会復帰していくためには、地域社会における健康管理や服薬管理等、医学的なサポートも必要になります。佐藤助教は、保健師として実際に統合失調症の患者さんたちと接する中で、統合失調症の患者さんでは体温が高めであったり、血液検査で白血球の数が増えていたりなど、もともと体の中で、何かしらの炎症反応が起きている可能性に気づきました。
明らかになってきた統合失調症の新たな病態メカニズム“脳の慢性炎症”
「リンパ球カリウムチャネル」を薬理的に抑えることで改善の可能性
これまで、統合失調症では、脳の中で神経伝達物質とよばれるドーパミンの異常が起きており、それに遺伝的要因や様々な環境要因が絡むことにより、病気を発症するというメカニズムが考えらえてきました。しかし、最近の報告によると、統合失調症の患者さんの脳内では、リンパ球やミクログリアとよばれる免疫細胞のはたらきが活発になっており、それらが放出するサイトカインによって、脳に“慢性炎症”がおきていることが明らかになっており、炎症を抑える薬を投与した場合、幻覚や妄想などの症状が抑えられることが分かってきました。
今回の発表内容は、風間教授がこれまで注目してきた「リンパ球カリウムチャネル」のはたらきを薬理的に抑えることによって、免疫細胞であるリンパ球自体の活動性を弱め、統合失調症でおきている、脳内の “慢性炎症”を抑える可能性を明らかにしたものです【図1】。
※「リンパ球カリウムチャネル」とは、リンパ球の細胞膜上に数多く存在するカリウムチャネルのことを指します。リンパ球とは免疫細胞の一種で、細菌やウイルスなどの病原体に感染した細胞を攻撃したり、抗体を作ったりするほか、記憶した病原体にすばやく対応し、それらを排除するなどの機能を持ちます。カリウムチャネルとは、細胞膜に存在するイオンチャネルの一種で、ほとんどの細胞に存在し、カリウムイオンを選択的に通過させることによって、細胞としての機能を維持しています。
腎臓病でおきている“リンパ球”と“カリウムチャネル”の過活動をヒントに
統合失調症の“慢性炎症” を抑え込む薬の候補を発見
風間教授はこれまで、薬理効果(免疫抑制作用)や病態生理との関連を研究する中で、カリウムチャネルのひとつである「Kv1.3」の活性が, 免疫能と深く関わることを明らかにしてきました。例えば、腎臓病のモデルラットでは、リンパ球の活動性が異常に高くなっており、その原因として、リンパ球上に存在する「Kv1.3」が過剰に発現し、はたらきも活発になっていることを発見しました【図2】。最近では、統合失調症だけでなく、認知症や多発性硬化症といった神経系の病気でも脳の“慢性炎症”が起きていることが分かってきました。そして、このカリウムチャネルのはたらきを抑え、リンパ球の活動性を弱めてやることが、病気の治療にもつながることが明らかになってきています。
また、統合失調症に効果があることが明らかになってきた非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やコレステロール降下薬(スタチン類)が、このカリウムチャネル「Kv1.3」のはたらきを抑え、リンパ球の活動性を弱めることを明らかにしました【図3】。
これらの薬は、安全性が十分に確かめられているので、副作用を心配することなく、今後、実臨床への応用が期待できる可能性があります。今回の報告は、これまで風間教授が明らかにしてきた自身の研究成果をもとに、いわゆる日常診療薬が、統合失調症に対する新規治療薬となる可能性について、重要な知見を明らかにしたものであるといえます。
風間教授は今後も、臨床から発想した研究の成果を再び臨床に還元することを目標とし、日々研究に取り組んでまいります。学生さんでも教職員の方でも、風間教授と一緒に研究をやってみたい人(在学中だけでも“研究者”になってみたい人!)は、是非ご一報ください。いつでもスタンバイしてお待ちしております。
( kazamai(a)myu.ac.jp メールの際は(a)を@に変えてご連絡願います)
研究報告の詳細について
なお、本研究報告は、4月21日付けで英文雑誌(Drug Discoveries & Therapeutics, 佐藤助教・桑名諒助手が共著者、風間教授が責任著者)に論文(Advance Publication)として掲載されています。
また、風間教授による最近の研究成果、および、これまで本学看護学群の学生、または教員を指導しながら発表してきた研究成果については、以下の和文・英文雑誌に掲載されています(いずれも風間教授がCorresponding author)。
- 若年者で新型コロナワクチン接種後に起きる副反応の特徴と病態生理にもとづく対処法の検討 Potential prophylactic efficacy of mast cell stabilizers against COVID-19 vaccine-induced anaphylaxis(本学看護学群学生が筆頭著者)
- Does immunosuppressive property of non-steroidal anti-inflammatory drugs (NSAIDs) reduce COVID-19 vaccine-induced systemic side effects? (本学看護学群学生が共著者)
- 宮城県で発生した新型コロナウイルス感染症患者の特徴 ─第 1 波 88 名の集計から見えた問題点と今後の課題─(本学看護学群学生が筆頭著者)
- Stabilizing mast cells by commonly used drugs: a novel therapeutic target to relieve post-COVID syndrome?
- Targeting lymphocyte Kv1.3-channels to suppress cytokine storm in severe COVID-19: Can it be a novel therapeutic strategy?
- Insulin accelerates recovery from QRS complex widening in a frog heart model of hyperkalemia(本学看護学群学生が筆頭著者)
- 高カリウム血症に対し大腸のカリウムチャネルをターゲットとした看護的介入(本学看護学群・庄子美智子助教が筆頭著者)
- デュシェンヌ型筋ジストロフィー女性保因者が発症するメカニズムと看護での実践(本学看護学群学生が筆頭著者)
- Catechin synergistically potentiates mast cell-stabilizing property of caffeine(本学看護学群学生が筆頭著者)
- 心電図検査における人為的ミスの発生と予防―ウシガエル心電図を用いた検討―(本学看護学群学生が筆頭著者)
- 麻疹に対するビタミンA補充療法の意義と看護現場での実践(本学看護学群学生が共著者)
- Reciprocal ST segment changes reproduced in burn-induced subepicardial injury model in bullfrog heart(本学看護学群学生が共著者)
研究者プロフィール
・佐藤 泰啓(さとう やすひろ):看護学群助教
地域精神保健を専門分野として、精神疾患を有する方々の地域生活を支える看護ケア、地域の健康課題を解決するための方法、等に関する研究を行っています。
<参考>
精神障害を持つ方も一般の住民も、共に生活しやすい地域づくりを目指します(シーズ集)
・風間 逸郎(かざま いつろう):看護学群教授
病態生理学・内科学・一般生理学を専門分野としております。また、内科の医師として現在も患者さんの診療に携わる中での研究は、常に臨床からの発想に端を発しており、研究の成果を再び臨床に還元することを目標としてきました。そして、遺伝子レベルでの解析から、細胞、生体レベルでの解析まで行うことにより、ミクロの研究とマクロの研究とを結びつけることを常にこころがけています。
<参考>
風間逸郎教授が腎臓の線維化における新規病態メカニズムを発見
風間逸郎教授が研究指導する学生達が「心筋梗塞でおこる心電図異常のメカニズム」を証明
風間逸郎教授がアナフィラキシーに対する新規治療法を発見
風間逸郎教授が新型コロナウイルス感染症に対する新規治療法の可能性を発見
新型コロナウイルス感染症の“後遺症”に対する治療法を発見/風間逸郎教授
麻疹(ましん)に対する新規治療法の可能性と臨床現場での有用性/風間逸郎教授が学生と報告
心電図検査における人為的ミスの発生と予防/ 風間逸郎教授が学生と報告
風間研究室の学生が「カフェインやカテキンによる抗アレルギー作用」のメカニズムを証明
女性が筋ジストロフィー(デュシェンヌ型)を発症するメカニズムを発見
宮城県における新型コロナウイルス感染症患者の特徴を明らかに/風間逸郎教授が学生と報告
マグネシウム過剰投与が引き起こす「高マグネシウム血症」心電図変化とそのメカニズムを疑似病態モデルで証明
病態生理にもとづき、高カリウム血症に対する看護的介入方法を発見
風間教授・編集の『看護技術』10月増刊号「病態生理からひもとく水・電解質異常」発刊
看護学群・風間研究室の学生が「高カリウム血症の心電図変化とそのメカニズム」を証明
新型コロナワクチン副反応に対する非ステロイド性抗炎症薬の有用性を明らかに
新型コロナワクチン接種後の“アナフィラキシー”に対する予防法を発見
若年者における新型コロナワクチン接種後の副反応の特徴を明らかに
「第99回日本生理学会大会」が仙台で開催/看護学群学生3名と助手1名も筆頭演者として発表