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22.07.15
看護学群・風間逸郎教授が卒業研究の学生と「ビタミン類が有する抗アレルギー作用」のメカニズムを解明
看護学群に所属する風間逸郎教授は、病態生理学・内科学・一般生理学を専門分野としています。また、内科の専門医として臨床にも携わっており、主要な研究のひとつとして「アレルギー疾患や臓器の線維化における肥満細胞の役割」をテーマとした研究を行っています。このたび、「ビタミン類が有する抗アレルギー作用」のメカニズムを、世界で初めて実験により証明しました。今回の取組みは、風間教授が本学・看護学群の学生(卒業生)を指導しながら進めた後、電気生理学的実験手法によって得られた研究成果を併せて発表したものです。
本研究成果は、2022年6月30日付けで英文雑誌(Cellular Physiology & Biochemistry)(IF:インパクトファクター 5.1)に掲載されました。本研究は、2020年に看護学群学生(佐藤雪音さん:当時4年生=令和2年度卒、現在は東北大学病院で看護師として働いています)が、「ビタミン類が有する抗アレルギー作用」をテーマとして卒業研究を行った後、風間教授が電気生理学的実験によるデータを積み重ね、そのメカニズムまで明らかにしたものです。今回、風間教授がまとめ、英文雑誌に発表した論文は、佐藤さんと風間教授(責任著者)の共著となっています。 |
従来のアレルギー疾患の治療法:抗ヒスタミン薬によりヒスタミンを抑える
私たちがよく耳にするアトピー性皮膚炎、花粉症、アレルギー性鼻炎・結膜炎、気管支喘息、食物アレルギーなどはアレルギー疾患と呼ばれます。アレルギー疾患の主役は、気道、鼻、眼などの粘膜に存在する肥満細胞とよばれる免疫細胞です。この肥満細胞は、ひとたび花粉やほこり、食べ物、薬などの刺激が加わると、ヒスタミンを含んだ大量の分泌顆粒を細胞外に放出し、気道、鼻、眼などの粘膜に作用して、いわゆるアレルギー症状(かゆみ、鼻汁、くしゃみ、気道の閉塞など)を引き起こします。従来の治療法は、放出されたヒスタミンのはたらきを抑える“抗ヒスタミン薬”によりアレルギー症状を緩和するものですが、今回の研究は、ヒスタミン放出前の段階、肥満細胞に刺激が加わった状態である“脱顆粒現象(エクソサイトーシス)”に着目しました。
ビタミン類がヒスタミン放出前の段階である脱顆粒現象(エクソサイトーシス)を抑制
“電気生理学的実験手法”により、抗アレルギー作用のメカニズムを解明
ビタミン類は肉や野菜など、多くの食品中に含まれており、人間の生命活動に欠かすことのできない栄養素です。ビタミン類の中でも、ビタミンC(アスコルビン酸)やビタミンB6(ピリドキシン)を含む食品は、アレルギー性鼻炎や気管支喘息の症状を抑えるはたらきがあるといわれますが、そのメカニズムなどはっきりしたことは分かっていませんでした。
図2 肥満細胞からの脱顆粒現象(エクソサイトーシス)(文献: Kazama I et al. Cell Physiol Biochem 2015より引用)
今回の研究では、ネズミの体内より採取した肥満細胞に対し、ビタミンCやビタミンB6の存在下で、アレルギー症状を引き起こすヒスタミンの放出状態である脱顆粒現象を意図的に引き起こし、その程度を調べました。その結果、これらのビタミン類の用量が一定値以上になったとき、その用量に比例して抗アレルギー作用が働くという結果が明らかになりま した【図1】。
肥満細胞からの脱顆粒現象は、パッチクランプ法という電気生理学的な実験方法によって、より正確に確かめることができます【図2】。
風間教授はこれまで、肥満細胞の脱顆粒現象を電気生理学的な膜容量の増加として捉え、アレルギー疾患の治療や臓器の線維化との関連から、数多くの研究報告をしてきました。
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パッチクランプ法による実験の結果、高用量のビタミンCやビタミンB6はともに、肥満細胞からの脱顆粒に伴う電気生理学的な膜容量の増加を有意に抑えました【図3】。従って、ビタミンCやビタミンB6は肥満細胞からの脱顆粒現象を直接抑えることによって抗アレルギー作用を発揮することを世界で初めて明らかにしたといえます。さらに本研究では、単独では効果が小さかった低用量のビタミン類どうしを併用することにより、それらの抗アレルギー効果が相乗的に強まることも発見しました。
医療や看護の現場における、本研究成果の意義
ビタミンCやビタミンB6は、症状を軽減し自然治癒能力を高めるようないわゆる対症療法的な処置とは異なり、根本的に肥満細胞からヒスタミンが放出される前の段階を抑えることができます。つまり、従来の治療法である抗ヒスタミン薬よりも強力な抗アレルギー作用を発揮できる可能性があります。
ビタミン類は、肉や野菜など多くの食品中に含まれ、日常的に人々が摂取しているものです。食事の内容や量を変えることによって摂取量を調節したり、サプリメントとして摂取したりすることもできるので、今回の発見は、医療や看護の現場でもすぐに応用できるものであるといえます。
また、風間教授は最近、肥満細胞の活性を抑えることが、腎不全などの慢性疾患に伴う臓器線維化の予防・治療にも有効なことを明らかにしています。今回の発見は、今後、これらの慢性疾患に対する治療にも応用できる可能性があります。
風間教授は「今後も、臨床から発想した研究の成果を再び臨床に還元することを目標とし、日々研究に取り組んでまいります。学生さんでも教職員の方でも、一緒に研究をやってみたい人は、是非ご一報ください。在学中だけでも“研究者”になってみたい!学会で発表してみたい!論文の著者になってみたい!という人でも構いません。いつでもスタンバイしてお待ちしております」とのメッセージを寄せました。
連絡先メールアドレス:kazamai(a)myu.ac.jp
※メールの際は、(a)を@に変換ください
研究報告の詳細について
なお、本研究成果は、2022年6月30日付けで英文雑誌(Cellular Physiology & Biochemistry)(IF:インパクトファクター 5.1)の電子版に論文として掲載されています。本論文は、佐藤さんと風間教授(責任著者:Corresponding author)の共著となっています。これまで風間教授が本学看護学群の学生(または教員)を指導しながら発表してきた研究成果については、以下の和文・英文雑誌に掲載されています(いずれも風間教授がCorresponding author)。
- 気管支喘息患者に対する水泳の有用性―エビデンスに基づく看護での実践指導へ―(本学看護学群学生が筆頭著者)
- Suppressing leukocyte Kv1.3-channels by commonly used drugs: A novel therapeutic target for schizophrenia?(本学看護学群・佐藤泰啓助教が筆頭著者)
- 若年者で新型コロナワクチン接種後に起きる副反応の特徴と病態生理にもとづく対処法の検討(本学看護学群学生が筆頭著者)
- Does immunosuppressive property of non-steroidal anti-inflammatory drugs (NSAIDs) reduce COVID-19 vaccine-induced systemic side effects? (本学看護学群学生が共著者)
- 宮城県で発生した新型コロナウイルス感染症患者の特徴 ─第 1 波 88 名の集計から見えた問題点と今後の課題─(本学看護学群学生が筆頭著者)
- Insulin accelerates recovery from QRS complex widening in a frog heart model of hyperkalemia(本学看護学群学生が筆頭著者)
- 高カリウム血症に対し大腸のカリウムチャネルをターゲットとした看護的介入(本学看護学群・庄子美智子助教が筆頭著者)
- デュシェンヌ型筋ジストロフィー女性保因者が発症するメカニズムと看護での実践(本学看護学群学生が筆頭著者)
- Catechin synergistically potentiates mast cell-stabilizing property of caffeine(本学看護学群学生が筆頭著者)
- 心電図検査における人為的ミスの発生と予防―ウシガエル心電図を用いた検討―(本学看護学群学生が筆頭著者)
- 麻疹に対するビタミンA補充療法の意義と看護現場での実践(本学看護学群学生が共著者)
- Reciprocal ST segment changes reproduced in burn-induced subepicardial injury model in bullfrog heart(本学看護学群学生が共著者)
また、風間教授がこれまでに発表してきた、本研究報告に関連する主な研究成果についても、別の英文雑誌に掲載されています(いずれも風間教授がCorresponding author)。
- Potential prophylactic efficacy of mast cell stabilizers against COVID-19 vaccine-induced anaphylaxis
- Stabilizing mast cells by commonly used drugs: a novel therapeutic target to relieve post-COVID syndrome?
- Targeting lymphocyte Kv1.3-channels to suppress cytokine storm in severe COVID-19: Can it be a novel therapeutic strategy?
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研究者プロフィール
・風間 逸郎(かざま いつろう):看護学群教授
病態生理学・内科学・一般生理学を専門分野としております。また、内科の医師として現在も患者さんの診療に携わる中での研究は、常に臨床からの発想に端を発しており、研究の成果を再び臨床に還元することを目標としてきました。そして、遺伝子レベルでの解析から、細胞、生体レベルでの解析まで行うことにより、ミクロの研究とマクロの研究とを結びつけることを常にこころがけています。
<参考>
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