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22.08.09
看護学群・風間研究室で「急性下壁心筋梗塞」で起きる心電図変化とそのメカニズムを証明
看護学群に所属する風間逸郎教授は、病態生理学・内科学・一般生理学を専門分野としています。また、内科の専門医として臨床にも携わっており、主要な研究のひとつとして「心疾患の病態生理と心電図異常のメカニズム解析」をテーマとした研究を行っています。このたび「急性下壁心筋梗塞でおきる心電図変化とそのメカニズム」を, 世界で初めてウシガエルの心臓を用いて証明しました。
本研究成果は、2022年7月付けで英文雑誌(Journal of Veterinary Medical Science)に掲載されました。今回の取組みは、看護学群教員(桑名諒助手)のほか、卒業研究の4年生(武藤瑞季さんら)にも一部協力してもらいながら、一貫して本学・看護学群内で行われた基礎研究成果です。今回、風間教授がまとめ、英文雑誌に発表した論文は、風間教授が責任著者、上記のメンバーが共著者となっています。 |
命にかかわる合併症をひき起こす「急性“下壁”心筋梗塞」とは
心臓を養う血管(冠動脈)に起こる動脈硬化により、心臓に血液が十分に行き渡らなくなり(虚血性心疾患), その結果, 心臓の筋肉が壊死まで起こしてしまった状態を“急性心筋梗塞”といいます。心筋梗塞は、迅速に診断して治療を行わないと命にかかわる大変危険な病気であり、症例の約半数は突然発症するといわれています。患者さんが病院に到着してから, 緊急で再潅流療法(閉塞した冠動脈の血流を再開させる治療)が開始されるまでの時間が遅れれば遅れるほど救命率が低下します。心臓の壁は、主に前側、後ろ側、横側、下側の部分から構成されますが、とくに下側の壁で心筋梗塞が起きた場合を、急性“下壁”心筋梗塞とよびます。この部分で心筋梗塞が起きると、重篤な心臓の伝導障害や低血圧を合併しやすく、早期に発見し、すぐに治療が行われなければ致死的となります。
急性下壁心筋梗塞の心電図でみられる“鏡像変化”
発症早期の心筋梗塞を迅速に診断するためには、心電図による検査が最も有用であるとされています。心電図検査は、患者に大きな負担をかけることなく、すぐに波形記録を確認できる検査です。急性心筋梗塞では、特徴的な心電図所見であるST間隔の上昇がみられることが多いとされていますが、必ずしも、急性心筋梗塞に限ったことではなく、他の心臓の病気(心筋炎、心膜炎、不整脈など)でもみられることがあります。しかし、下壁で心筋梗塞が起きた場合には、“鏡像変化”とよばれるST間隔低下の所見を伴うことが多いため、これがみられれば、その診断が確定的となります。しかしこれまで、この“鏡像変化”がどのようにして起きるのか、そのメカニズムまで詳しく調べた研究はありませんでした。
世界で初めてウシガエルの心臓を用いた擬似病態モデルを作成
今回の研究は、ウシガエルの心臓を活用して急性下壁心筋梗塞の擬似病態モデルを作り、“心電図異常メカニズム”を再現し、解析を行ったものです。解析の結果、心臓の下壁部分を焼灼することで、急性下壁心筋梗塞に特徴的な心電図の異常波形(II, III, aVF誘導でST間隔の上昇、およびI, aVL誘導でST間隔の低下)が起き、鏡像変化が再現されることを明らかにしました(図1)。さらに、細胞内からナトリウムイオンを汲み出し、カリウムイオンを取り込む細胞膜上の構造“ナトリウムカリウムポンプ(Na/K-ATPase)”の発現異常と、それによって生じる傷害電流の流れが、急性下壁心筋梗塞における心電図異常のメカニズムに影響することも明らかにしました(図2)。
看護師にとって、心電図で起きる変化のメカニズムを理解することは、目の前の患者さんの中で起きていること(病態生理)を理解し、病気を診断するための強力な武器になりえます。本研究成果は, 急性期の医療・看護の現場で、命の危険が迫る“急性下壁心筋梗塞”をより迅速に診断できるようにする糸口を世界で初めて明らかにしたといえます。
風間教授は「今後も、臨床から発想した研究の成果を再び臨床に還元することを目標とし、日々研究に取り組んでまいります。学生さんでも教職員の方でも、一緒に研究をやってみたい人は、是非ご一報ください。在学中だけでも“研究者”になってみたい!学会で発表してみたい!論文の著者になってみたい!という人でも構いません。いつでもスタンバイしてお待ちしております」とのメッセージを寄せました。
連絡先メールアドレス:kazamai(a)myu.ac.jp
※メールの際は、(a)を@に変換ください
研究報告の詳細について
なお、本研究成果は、2022年7月8日付けで英文雑誌(Journal of Veterinary Medical Science)の電子版に論文として掲載されています。本論文は、風間教授が責任著者(Corresponding author)、桑名諒助手と卒業研究の4年生(武藤瑞季さんら)が共著者となっています。
- 気管支喘息患者に対する水泳の有用性―エビデンスに基づく看護での実践指導へ―(本学看護学群学生が筆頭著者)Suppressing leukocyte Kv1.3-channels by commonly used drugs: A novel therapeutic target for schizophrenia?(本学看護学群・佐藤泰啓助教が筆頭著者)
- 若年者で新型コロナワクチン接種後に起きる副反応の特徴と病態生理にもとづく対処法の検討(本学看護学群学生が筆頭著者)
- Does immunosuppressive property of non-steroidal anti-inflammatory drugs (NSAIDs) reduce COVID-19 vaccine-induced systemic side effects? (本学看護学群学生が共著者)
- 宮城県で発生した新型コロナウイルス感染症患者の特徴 ─第 1 波 88 名の集計から見えた問題点と今後の課題─(本学看護学群学生が筆頭著者)
- Insulin accelerates recovery from QRS complex widening in a frog heart model of hyperkalemia(本学看護学群学生が筆頭著者)
- 高カリウム血症に対し大腸のカリウムチャネルをターゲットとした看護的介入(本学看護学群・庄子美智子助教が筆頭著者)
- デュシェンヌ型筋ジストロフィー女性保因者が発症するメカニズムと看護での実践(本学看護学群学生が筆頭著者)
- Catechin synergistically potentiates mast cell-stabilizing property of caffeine(本学看護学群学生が筆頭著者)
- 心電図検査における人為的ミスの発生と予防―ウシガエル心電図を用いた検討―(本学看護学群学生が筆頭著者)
- 麻疹に対するビタミンA補充療法の意義と看護現場での実践(本学看護学群学生が共著者)
- Reciprocal ST segment changes reproduced in burn-induced subepicardial injury model in bullfrog heart(本学看護学群学生が共著者)
また、風間教授がこれまでに発表してきた、本研究報告に関連する主な研究成果についても、別の英文雑誌に掲載されています(いずれも風間教授がCorresponding author)。
- Potential prophylactic efficacy of mast cell stabilizers against COVID-19 vaccine-induced anaphylaxis
- Stabilizing mast cells by commonly used drugs: a novel therapeutic target to relieve post-COVID syndrome?
- Targeting lymphocyte Kv1.3-channels to suppress cytokine storm in severe COVID-19: Can it be a novel therapeutic strategy?
- α 1-Adrenergic Receptor Blockade by Prazosin Synergistically Stabilizes Rat Peritoneal Mast Cells
- Anti-Allergic Drugs Tranilast and Ketotifen Dose-Dependently Exert Mast Cell-Stabilizing Properties
- Hydrocortisone and dexamethasone dose-dependently stabilize mast cells derived from rat peritoneum
- Clarithromycin Dose-Dependently Stabilizes Rat Peritoneal Mast Cells
- Olopatadine inhibits exocytosis in rat peritoneal mast cells by counteracting membrane surface deformation
- Mast cell involvement in the progression of peritoneal fibrosis in rats with chronic renal failure
研究者プロフィール
・風間 逸郎(かざま いつろう):看護学群教授
病態生理学・内科学・一般生理学を専門分野としております。また、内科の医師として現在も患者さんの診療に携わる中での研究は、常に臨床からの発想に端を発しており、研究の成果を再び臨床に還元することを目標としてきました。そして、遺伝子レベルでの解析から、細胞、生体レベルでの解析まで行うことにより、ミクロの研究とマクロの研究とを結びつけることを常にこころがけています。
<参考>
風間逸郎教授が腎臓の線維化における新規病態メカニズムを発見
風間逸郎教授が研究指導する学生達が「心筋梗塞でおこる心電図異常のメカニズム」を証明
風間逸郎教授がアナフィラキシーに対する新規治療法を発見
風間逸郎教授が新型コロナウイルス感染症に対する新規治療法の可能性を発見
新型コロナウイルス感染症の“後遺症”に対する治療法を発見/風間逸郎教授
麻疹(ましん)に対する新規治療法の可能性と臨床現場での有用性/風間逸郎教授が学生と報告
心電図検査における人為的ミスの発生と予防/ 風間逸郎教授が学生と報告
風間研究室の学生が「カフェインやカテキンによる抗アレルギー作用」のメカニズムを証明
女性が筋ジストロフィー(デュシェンヌ型)を発症するメカニズムを発見
宮城県における新型コロナウイルス感染症患者の特徴を明らかに/風間逸郎教授が学生と報告
マグネシウム過剰投与が引き起こす「高マグネシウム血症」心電図変化とそのメカニズム
病態生理にもとづき、高カリウム血症に対する看護的介入方法を発見
風間教授・編集の『看護技術』10月増刊号「病態生理からひもとく水・電解質異常」発刊
看護学群・風間研究室の学生が「高カリウム血症の心電図変化とそのメカニズム」を証明
新型コロナワクチン副反応に対する非ステロイド性抗炎症薬の有用性を明らかに
新型コロナワクチン接種後の“アナフィラキシー”に対する予防法を発見
若年者における新型コロナワクチン接種後の副反応の特徴を明らかに
「第99回日本生理学会大会」が仙台で開催/看護学群学生3名と助手1名も筆頭演者として発表
風間逸郎教授と佐藤泰啓助教が、統合失調症に対する新規治療法の可能性を明らかに
気管支喘息に対する水泳の有用性を明らかに
風間教授が卒業研究の学生と「ビタミン類が有する抗アレルギー作用」のメカニズムを解明
風間研究室で「急性下壁心筋梗塞」で起きる心電図変化とそのメカニズムを証明