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22.10.31

抗ヒスタミン薬による抗アレルギー作用の新たなメカニズムを明らかに/看護学群・風間教授が卒業研究の4年生と

看護学群の風間逸郎教授は、病態生理学・内科学・一般生理学を専門分野としています。また、内科の専門医として臨床にも携わっており、主要な研究のひとつとして「アレルギー疾患や臓器の線維化における肥満細胞の役割」をテーマとした研究を行っています。このたび、風間教授が卒業研究指導をしている看護学群4年生の藤村莉々花さん、浅田彩乃さんらが「抗ヒスタミン薬による抗アレルギー作用の新たなメカニズム」を, 世界で初めて実験により証明しました。今回の取組みは、本学・看護学群の学生が主体となり、一貫して本学群内で行われた基礎研究成果です。

本研究成果は、2022年10月13日付けで英文雑誌(Drug Discoveries & Therapeutics)にも掲載されました。看護学群4年生藤村莉々花さんと浅田彩乃さんは、主体的に本研究に取り組んだため、それぞれ本英語論文の第一、第二著者になっています(風間教授は責任著者)。

アレルギー疾患を引き起こすメカニズム、従来の治療法は
放出されたヒスタミンのはたらきを抑える“抗ヒスタミン薬”により症状を緩和

私たちがよく耳にするアトピー性皮膚炎、花粉症、アレルギー性鼻炎・結膜炎、気管支喘息、食物アレルギーなどはアレルギー疾患と呼ばれます。アレルギー疾患の主役は、気道、鼻、眼などの粘膜に存在する肥満細胞とよばれる免疫細胞です。この肥満細胞は、ひとたび花粉やほこり、食べ物、薬などの刺激が加わると、ヒスタミンを含んだ大量の分泌顆粒を細胞外に放出し、気道、鼻、眼などの粘膜に作用して、いわゆるアレルギー症状(かゆみ、鼻汁、くしゃみ、気道の閉塞など)を引き起こします。
従来の治療法は、放出されたヒスタミンのはたらきを抑える“抗ヒスタミン薬”によりアレルギー症状を緩和するものですが、今回の研究は、ヒスタミン放出前の段階、肥満細胞に刺激が加わった状態である“脱顆粒現象(エキソサイトーシス)”に着目しました。

一般診療で頻用される抗ヒスタミン薬が、症状を軽減するだけでなく
ヒスタミン放出前の段階である“脱顆粒現象(エキソサイトーシス)”も抑制する
特に、第二世代抗ヒスタミン薬の効果がより強い

今回の研究では、ネズミの体内より採取した肥満細胞に対し、一般診療でもよく用いられている抗ヒスタミン薬(セチリジン、ジフェンヒドラミンなど)の存在下で、アレルギー症状を引き起こすヒスタミンの放出状態である脱顆粒現象を意図的に引き起こし、その程度を調べました。その結果、これらの抗ヒスタミン薬の用量が一定値以上になったとき、その用量に比例して抗アレルギー作用が働くという結果となりました(図1)。

図1、ジフェンヒドラミン、セチリジンによる脱顆粒抑制(文献: Fujimura R and Kazama I et al. Drug Discov Ther 2022より引用)

今回の結果により、これらの抗ヒスタミン薬は、放出されたヒスタミンのはたらきを抑えるだけでなく、そもそも肥満細胞からの脱顆粒現象を直接抑えることによっても抗アレルギー作用を発揮することを(=肥満細胞安定化作用)、世界で初めて明らかにしたといえます(図2)。

図2、ジフェンヒドラミン、セチリジンによる肥満細胞安定化作用(文献: Fujimura R and Kazama I et al. Drug Discov Ther 2022より引用)

さらに、同じ用量で比較した場合には、ジフェンヒドラミン(レスタミン)やクロルフェニラミン(ポララミン)など、眠気・口喝といった副作用が強く、主に総合感冒薬に多く含まれてきた第一世代抗ヒスタミン薬よりも、セチリジン(ジルテック)やレボセチリジン(ザイザル)など、主に病院で処方されている第二世代抗ヒスタミン薬の方が、この肥満細胞安定化作用が強いことも明らかになりました(図3)。

図3、第一世代抗ヒスタミン薬と第二世代抗ヒスタミン薬の比較(文献: Fujimura R and Kazama I et al. Drug Discov Ther 2022より引用)

今回の研究で調べた抗ヒスタミン薬(とくにセチリジンやレボセチリジン)は、症状を軽減し、自然治癒能力を高めるような、いわゆる対症療法的な効果だけでなく、根本的に肥満細胞からヒスタミンが放出される前の段階も抑えることが明らかになりました。つまり、他の抗ヒスタミン薬よりも強力な抗アレルギー作用を発揮できる可能性があります。
最近では、花粉症をはじめとするアレルギー疾患の増加に伴い、市販薬や病院からの処方薬を問わず、多くの種類の抗ヒスタミン薬が使えるようになりました。今後、医療や看護の現場では、それぞれの薬の効果や副作用をよく理解したうえで、個々の患者さんの病状や体調に合った薬を選択することが求められるようになるでしょう。今回の発見は、そのような判断を行っていくための、ひとつの手がかりになるといえます。

風間教授は「今後も、臨床から発想した研究の成果を再び臨床に還元することを目標とし、日々研究に取り組んでまいります。学生さんでも教職員の方でも、一緒に研究をやってみたい人は、是非ご一報ください。在学中だけでも“研究者”になってみたい!学会で発表してみたい!論文の著者になってみたい!という人でも構いません。いつでもスタンバイしてお待ちしております」とのメッセージを寄せました。
連絡先メールアドレス:kazamai(a)myu.ac.jp
​​​​​​​※メールの際は、(a)を@に変換ください

研究報告の詳細について

なお、本研究成果は、2022年10月13日付けで英文雑誌(Drug Discoveries & Therapeutics)にも掲載されました。看護学群4年生の藤村莉々花さんと浅田彩乃さんは、主体的に本研究に取り組んだため、それぞれ本英語論文の第一、第二著者に、風間教授は責任著者(Corresponding author)となっています。なお、これまで風間教授が本学看護学群の学生を指導しながら発表してきた研究成果については、以下の和文・英文雑誌に掲載されています(いずれも風間教授がCorresponding author)。

また、風間教授がこれまでに発表してきた、本研究報告に関連する主な研究成果についても、別の英文雑誌に掲載されています(いずれも風間教授がCorresponding author)。

研究者プロフィール

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