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23.01.20

病態生理にもとづき、高カリウム血症に対する新規治療法について報告/看護学群・庄子美智子助教と風間逸郎教授

看護学群に所属する風間逸郎教授は、病態生理学・内科学・一般生理学を専門分野としております。このたび、成人看護学分野・庄子美智子助教と共に、高齢者や腎不全患者に合併しやすい高カリウム血症に対する新規治療法について考察し、英文雑誌に報告しましたのでお知らせします。

今回の報告は、これまで日本透析医学会等で発表してきた研究成果をベースに、とくに “新規治療法”に焦点を当て、風間教授がまとめたものです。本報告内容は、2023年1月付けで英文雑誌(Nefrologiaに掲載され、庄子助教と風間教授(責任著者)が共著となっています。

在宅医療の現場でも、腎不全に伴う“高カリウム血症”の高齢患者が増加しています

カリウムは、栄養素として欠かすことのできない「必須ミネラル」のひとつで、高血圧の大きな要因である塩分(ナトリウム)の排出を促す作用もあります。そのため、血圧を正常に保つ効果もあるといわれており、切り干し大根やドライバナナ、刻み昆布などに豊富に含まれている栄養分としてご存じの方も多いと思います。

一方で、例えば腎臓の働きが低下するなどして、カリウムを十分に排泄することができないと、カリウムが体内に蓄積し血液中のカリウム濃度が高くなる“高カリウム血症”を引き起こす場合があります。この“高カリウム血症”は、全身の筋力低下や脱力といった症状だけではなく、重篤になると、心室頻拍や心室細動などの致死的な不整脈が誘発されるため、緊急の治療が必要になります。近年では、糖尿病患者数の増加に伴って、慢性腎臓病を合併する高齢者の数は年々増加しており、高齢患者を主な対象とする在宅医療の現場においても、腎不全に伴う高カリウム血症の患者を看る機会が多くなってきました。

腎臓だけではなく大腸からカリウム排泄が行われるケースに着目
大腸からのカリウム排泄の担い手「BKチャネル」

末期腎不全では、腎臓からのカリウム排泄の低下を補うべく、腸管からのカリウム排泄が増加することが分かっています。近年ではそのメカニズムとして、大腸管腔側に発現するカリウムチャネル“BKチャネル”(Big K+ Channel; large conductance calcium-activated potassium channel, Maxi-K, Kca1.1)の関与が明らかになってきました。このBKチャネルの多くは、脳、血管、膀胱に発現し、主に神経や平滑筋の興奮をつかさどることが知られていますが、腎臓や大腸においても発現することが明らかになっており、尿中や便中へカリウムを排泄する役割を担うことが分かってきました。

大腸管腔内を流れる濾液流量の増加によってBKチャネルは活性化する
BKチャネルが活性化するとカリウムが排泄されやすくなる

図:大腸BKチャネルをターゲットとした高カリウム血症の治療(Kazama and Shoji. Nefrologia 2023 in press)

腎臓からのカリウム排泄は主に尿を排泄する通路となる集合管で行われており、管腔側に発現するカリウムチャネル“ROMKチャネル”(Renal Outer-Medullary K+ channel, Kir 1.1)が中心的な役割を担っています。大腸に発現するBKチャネルとは構造が異なりますが、どちらも、尿細“管”または消化“管”という“管腔”の表面に存在し、はたらきや性質がとてもよく似ています。このROMKチャネルのはたらきは、レニン・アンギオテンシン・アルドステロンというホルモンによって直接的に刺激されるほか、管腔内を流れる濾液流量の増加によっても、活発になることが分かっています。これは、濾液が速く流れ去るほど、濾液中のカリウム濃度が低くなることによります。その結果、カリウムが尿中に排泄されやすくなるのです。
大腸のBKチャネルも同様に、管腔内を流れる濾液流量の増加によって活性化されることが分かっており、大腸BKチャネルの場合は、大腸管腔内を流れる“便通の増加”がそれに相当するといえます(図)。

大腸BKチャネルをターゲットにした、高カリウム血症の新しい治療法
浸透圧性の下剤の他、BKチャネルを直接的に刺激する食品による改善方法

腎不全の患者さんは便秘を合併することが多く、日常的に下剤を使用するケースが多くみられます。このような患者さんに対しては、とくに酸化マグネシウムなどの“浸透圧性”の下剤を用いて便を軟らかくしたり、食物繊維が豊富な食べ物の摂取により便通を改善させたりすることで、便の流量を増加させ、大腸BKチャネルを活性化させる効果があると考えられます(図)。また、最近の研究によれば、食品成分の中でも魚油に多く含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)や、赤ワインに含まれるポリフェノール(レスベラトロール)は、BKチャネルを直接的に刺激する作用もあることが分かってきました。以上のような病態生理にもとづけば、酸化マグネシウムなどの下剤のほか、これらの食品成分の摂取を積極的にすすめることによっても、高カリウム血症を改善できると考えられます。

看護師は、医療に関する専門的知識と生活の視点からアセスメントすることにより、個々の患者に合わせた食事・服薬指導を行うことができます。高齢化社会の進展とともに腎不全患者の数は増加しており、在宅医療の現場など、必ずしも医療機関ではないところで、高カリウム血症に対処していかなくてはならない場面も増えてきています。看護師が病態生理をしっかりと理解したうえで、医療と生活双方の視点から患者を看ていくことの必要性が増しているといえます。

風間教授は「今後も、臨床から発想した研究の成果を再び臨床に還元することを目標とし、日々研究に取り組んでまいります。学生さんでも教職員の方でも、一緒に研究をやってみたい人は、是非ご一報ください。在学中だけでも“研究者”になってみたい!学会で発表してみたい!論文の著者になってみたい!という人でも構いません。いつでもスタンバイしてお待ちしております」とのメッセージを寄せました。

研究報告の詳細について

なお、本報告内容は、2023年1月付けで英文雑誌(Nefrologia)に掲載されました。
本英語論文は、庄子助教と風間教授(責任著者)が共著となっています。なお、これまで風間教授が本学看護学群の学生を指導しながら発表してきた研究成果については、以下の和文・英文雑誌に掲載されています(いずれも風間教授が責任著者)。

研究者プロフィール

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