• ホーム >
  • 学群・大学院等 >
  • 新着情報 >
  • 新型コロナウイルス感染症の後遺症でおきる“ブレインフォグ”のメカニズムのひとつを報告、他/看護学群・風間逸郎教授

新着情報

23.03.30

新型コロナウイルス感染症の後遺症でおきる“ブレインフォグ”のメカニズムのひとつを報告、他/看護学群・風間逸郎教授

看護学群に所属する風間逸郎教授は、病態生理学・内科学・一般生理学を専門分野としております。このたび、これまでの自身の研究成果をもとに、新型コロナウイルス感染症の後遺症で起きる“ブレインフォグ”のメカニズムの鍵となる重要な知見を発見し、英文雑誌に報告しました。

新型コロナ後遺症で増えてきた症状のひとつ “ブレインフォグ” 

新型コロナウイルス感染症にかかった後、ほとんどの人は時間経過とともに症状が改善しますが、一部の人は症状が長引くことがあり、これらの罹患後症状はいわゆる“後遺症”と呼ばれています。新型コロナウイルスはオミクロン株へ変異してから感染力を増し、日本でも流行の第6~8波を起こしました。現在、第8波は収束に向かい、5月からは感染症法上でも5類扱いになることが決まっていますが、未だに後遺症で苦しむ患者さんは後を絶ちません。後遺症の代表的な症状には、疲労感・倦怠感、関節痛、筋肉痛、咳、息切れ、胸痛、脱毛などが知られていますが、最近では、記憶障害、集中力低下、抑うつなどの精神神経症状を訴えるケースも多く、“ブレインフォグ”と呼ばれています(表1)。

表1:新型コロナウイルス感染症後に起きる症状やメカニズムのまとめ(Kazama I. Neurochem Res 2023より)

明らかになってきたブレインフォグの新たな病態メカニズム“脳の慢性炎症”
免疫細胞の「カリウムチャネル」を薬理的に抑えることで改善の可能性

新型コロナ後遺症のうち、咳、息切れなどの呼吸器症状については、肺の線維化による可能性が指摘されています。一方で、ブレインフォグについては、ウイルスの直接浸潤や脳血管の凝固異常のほか、最近では、自己抗体など免疫系の異常が関与している可能性が明らかになってきました。さらに、ブレインフォグを起こした患者さんの脳内では、ミクログリアやリンパ球とよばれる免疫細胞のはたらきが活発になっていることにより、脳に“慢性炎症”がおきていることも明らかになりました。※ミクログリアやリンパ球は、脳内に存在する免疫細胞の一種で、細菌やウイルスなどの病原体にすばやく対応し、それらを排除するほか、病原体に感染した細胞を攻撃したり、抗体を作ったりする機能を持ちます。

図1:ブレインフォグにおける脳内の慢性炎症とカリウムチャネル(Kazama I. Neurochem Res 2023より)

薬理効果(免疫抑制作用)や病態生理との関連を研究する中で、カリウムチャネルのひとつである「Kv1.3」の活性が, 免疫能と深く関わることを明らかにしてきました。このカリウムチャネルのはたらきを抑え、リンパ球の活動性を弱めてやることが、病気の治療にもつながることが明らかになってきています。今回の発表内容はこのカリウムチャネルのはたらきを薬理的に抑えることによって、免疫細胞であるミクログリアやリンパ球自体の活動性を弱め、ブレインフォグでおきている脳内の “慢性炎症”を抑える可能性を明らかにしたものです(図1)。※カリウムチャネルとはイオンチャネルの一種で、ミクログリアやリンパ球の細胞膜に数多く存在します。カリウムイオンを選択的に通過させることによって、細胞としての機能を維持しています。

さらに、これまで、日常診療の中で多くの患者さんたちに使われている抗アレルギー薬やコレステロール降下薬(スタチン類)、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、抗生物質、降圧薬などの中に、このカリウムチャネルのはたらきを抑える薬があることも数多く発見してきました(図1)。これらの頻用薬によっても、ブレインフォグの原因のひとつである、脳内の慢性炎症を抑えることができるかもしれません。(ただし、実臨床で使用できるようにするためには更なる検証が必要になります)。

今回の報告は、これまで明らかにしてきた自身の研究成果をもとに、新型コロナ後遺症で起きるブレインフォグについて、重要な知見を明らかにしたものです。風間教授は「今後も、臨床から発想した研究の成果を再び臨床に還元することを目標とし、日々研究に取り組んでまいります。学生さんでも教職員の方でも、一緒に研究をやってみたい人は、是非ご一報ください。在学中だけでも“研究者”になってみたい!学会で発表してみたい!論文の著者になってみたい!という人でも構いません。いつでもスタンバイしてお待ちしております」とのメッセージを寄せています。

ご参考までに、以下は学生の研究事例です。


追加記事:3/14-16日本生理学会第100回記念大会
看護学群風間研究室の学生4名と相澤助手が研究発表を実施

3月14日~16日の間、看護学群の風間教授が評議員および生理学エデュケーターを務める日本生理学会の第100回記念大会が京都で開催され、3/16(大会3日目)の “病態生理”のセッションにおいて、4年生の武藤瑞季さん、浅田彩乃さん、永野有夢さん、藤村莉々花さんと看護学群・相澤美里助手が, それぞれ筆頭演者として研究発表を行いました。いずれの発表内容も, 風間教授による研究指導の下, 一貫して本学・看護学群内で行われた基礎研究成果です。

発表する永野さん

発表する浅田さん

発表する相澤助手

発表する武藤さん

武藤瑞季さん「ウシガエル急性下壁心筋梗塞モデルの作成と心電図変化のメカニズム」

急性期看護の現場でもよく遭遇する “急性下壁心筋梗塞”をウシガエルの心臓を用いて再現し、そのときに起きる心電図変化や、メカニズムまで明らかにしました。心電図検査の基本原理を学習するとともに、看護師として、命の危険が迫る急性心筋梗塞を迅速かつ的確に診断し、早期の治療開始につなげる糸口を発見したといえます。

永野有夢さん「アミトリプチリン中毒の病態生理と心電図変化のメカニズム」

三環系の抗うつ薬の中でもよく使われる“アミトリプチリン”に注目し、その中毒によって起こりうる心電図変化に興味を持ち、そのメカニズムを明らかにするための研究を行いました。近年、社会問題となっている薬物大量摂取の早期発見のツールとしての心電図の有用性を示した意義のある研究です。

浅田彩乃さん「マグネシウムが有するアドレナリンによる肥満細胞安定化作用の増強効果」

アナフィラキシーの治療で用いられるアドレナリンが効くメカニズムに注目し、実際にラットから採取した肥満細胞を用いて実験を行いました。さらに、今注目されているミネラルのひとつ“マグネシウム”が、抗アレルギー作用を発揮するメカニズムも明らかにし、アナフィラキシーの治療にも応用できる可能性を示しました。

藤村莉々花さん「セチリジンとジフェンヒドラミンによる肥満細胞安定化作用の比較」

花粉症の治療薬として用いられる、第一世代抗アレルギー薬と第二世代抗アレルギーの作用の違いに注目し、実際にラットから採取した肥満細胞を用いて実験を行いました。さらに、細胞の形を丁寧に観察することにより、そのメカニズムについても明らかにしました。個々の体質の違いに合わせた薬剤を選択するなど、実際の医療や看護の現場では、例えば服薬指導などの助けになります。

相澤美里助手「新型コロナワクチン接種後のリンパ節腫脹に対する非ステロイド性抗炎症薬の有用性と生理学的メカニズム」

相澤美里助手は、看護学群4年生の藤倉邑圭さん、平井菜々美さん、目時華恋さんと共同で、宮城大学こびっと隊有志メンバーと行ったアンケート調査をもとに、若年者における新型コロナワクチン3回目の接種後の副反応(症状の種類や頻度、発症日と持続期間、副反応への対処法など)についてデータを集約しまとめました。そのうえで、生理学的な観点から副反応のメカニズムや薬剤の治療効果について検証し、看護師・保健師としてもワクチン接種率の向上に貢献できる可能性を導き出しました。

浅田さん、藤村さん、武藤さん、永野さん

相澤助手、藤倉さん、平井さん、目時さん


研究報告の詳細について

なお、上記風間教授の研究報告は、3月23日付けで英文雑誌(Neurochemical Research: Impact factor 4.4)の電子版に掲載されています。また、看護学群の学生を指導しながら, これまでに発表してきた新型コロナウイルス感染症に関連する主な研究成果についても、別の英文/和文雑誌に掲載されています。(いずれも風間教授がCorresponding author)

これまで本学看護学群の学生(または教員)を指導しながら発表してきた、他の研究成果についても、以下の和文・英文雑誌に掲載されています(いずれも風間教授がCorresponding author)。

研究者プロフィール

TOP