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23.06.08

急性下壁心筋梗塞で起きる心電図の“鏡像変化”のメカニズムを明らかに/看護学群・風間教授が卒業研究の4年生と

看護学群に所属する風間逸郎教授は、病態生理学・内科学・一般生理学を専門分野としています。また、内科の専門医として臨床にも携わっており、主要な研究のひとつとして「心疾患の病態生理と心電図異常のメカニズム解析」をテーマとした研究を行っています。
このたび、風間教授が研究指導をしている看護学群4年生の武藤瑞季さん(現・東北大学病院)が「ウシガエル急性下壁心筋梗塞モデルで起きる鏡像変化のメカニズム」をウシガエルの心臓を用いて証明しました。今回の取り組みは、本学・看護学群の学生が主体となり、一貫して本学群内で行われた基礎研究成果です。

本研究報告は、5月23日付けで「医学と生物学」2023年5月号に原著論文として掲載されています。看護学群4年生(当時)の武藤瑞季さんは主体的に本研究に取り組んだため、本論文の筆頭著者になっています(風間教授は責任著者)。また本内容は、日本生理学会第100回記念大会(3/14~16、京都)でも、武藤瑞季さんが筆頭演者として発表しました。

致死的な合併症をひき起こす「急性下壁心筋梗塞」とは

図1:急性心筋梗塞の病態生理(宮城大学「疾病論I(風間担当)」の授業資料より)

心臓を養う血管(冠動脈)に起こる動脈硬化により、心臓に血液が十分に行き渡らなくなり(虚血性心疾患), その結果, 心臓の筋肉が壊死まで起こしてしまった状態を“急性心筋梗塞”とよびます。心筋梗塞は、迅速に診断して治療を行わないと命にかかわる大変危険な病気であり、症例の約半数は突然発症するといわれています。患者さんが病院に到着してから, 緊急で再潅流療法(閉塞した冠動脈の血流を再開させる治療)が開始されるまでの時間が遅れれば遅れるほど救命率が低下します。

心臓の壁は、主に前側、後ろ側、横側、下側の部分から構成されますが、とくに下側の壁で心筋梗塞が起きた場合を、急性“下壁”心筋梗塞とよびます。この部分で心筋梗塞が起きると、重篤な心臓の伝導障害や低血圧を合併しやすく、早期に発見し、すぐに治療が行われなければ致死的となります(図1)。

急性下壁心筋梗塞の心電図でみられる“鏡像変化”

発症早期の心筋梗塞を迅速に診断するためには、心電図による検査が最も有用であるとされています。心電図検査は、患者に大きな負担をかけることなく、すぐに波形記録を確認できる検査です。急性心筋梗塞では、特徴的な心電図所見であるST部分の上昇がみられることが多いとされていますが、必ずしも、急性心筋梗塞に限ったことではなく、他の心臓の病気(心筋炎、心膜炎、不整脈など)でもみられることがあります。しかし、下壁で心筋梗塞が起きた場合には、“鏡像変化”とよばれるST部分低下の所見を伴うことが多いため、これがみられれば、その診断が確定的となります。しかしこれまで、この“鏡像変化”がどのようにして起きるのか、そのメカニズムまで詳しく調べた研究はありませんでした。

ウシガエルの心臓を用いた擬似病態モデルにより
鏡像変化のメカニズムを明らかに

今回の研究は、ウシガエルの心臓を用いて急性心筋梗塞の擬似病態モデルを作り、心電図異常を再現し、メカニズムの解析を行ったものです。解析の結果、心臓の表面を焼灼することによりST部分が上昇した一方で、心臓の背側面を焼灼することにより、逆にST部分が低下し、鏡像変化が再現されました(図2)。

図2:ウシガエル心臓の表面(左)または背側面(右)を焼灼した場合の心電図変化(武藤、永野、風間「医学と生物学」2023より引用)

図3:急性心筋梗塞モデルで発生する傷害電流と鏡像変化が生じるメカニズム(武藤、永野、風間「医学と生物学」2023より引用)

心筋の焼灼モデルと同じように、実際の急性心筋梗塞の場合にも、傷害を受けた心筋側から正常の心筋側に向かって“傷害電流”とよばれる電流が発生します。ST部分が上昇または低下するメカニズムは、傷害電流の流れを捉える心電図の誘導の向きに応じて、心電図の基線が低下または上昇して見えるためであると考えられました(図3)。

看護師にとって、心電図で起きる変化のメカニズムを理解することは、目の前の患者さんの中で起きていること(病態生理)を理解し、病気を診断するための強力な武器になりえます。本研究成果は, 急性期の医療・看護の現場で、命の危険が迫る“急性下壁心筋梗塞”をより迅速に診断できるようにする糸口を世界で初めて明らかにしたといえます。

風間教授は「今後も、臨床から発想した研究の成果を再び臨床に還元することを目標とし、日々研究に取り組んでまいります。在学中だけでも研究者になってみたい、学会で発表してみたい、論文の著者になってみたい学生さんは、是非ご一報ください。」とのコメントを寄せております。

左から3番目が武藤さん(日本生理学会第100回記念大会・京都、ポスター会場にて)

研究報告の詳細について

なお、本研究成果は、5月23日付けで「医学と生物学」2023年5月号に掲載されました。看護学群4年生(当時)の武藤瑞季さんは主体的に本研究に取り組んだため、本論文の筆頭著者になっています(風間教授は責任著者)。なお、これまで風間教授が本学看護学群の学生を指導しながら発表してきた研究成果については、以下の和文・英文雑誌に掲載されています(いずれも風間教授が責任著者)。

研究者プロフィール

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