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23.09.08
卒業研究の4年生と風間教授ら「高カリウム血症の心電図変化と急性期治療薬の効果」を明らかに/看護学群
看護学群の風間逸郎教授は、病態生理学・内科学・一般生理学を専門分野としています。また、内科の専門医として臨床にも携わっており、主要な研究のひとつとして「心疾患の病態生理と心電図異常のメカニズム解析」をテーマとした研究も行っています。このたび、研究指導をしている看護学群4年生の東沙耶さんと、看護学群の桑名諒助手、成澤健助教らが「高カリウム血症でおきる心電図変化と急性期における治療薬の効果」について, ウシガエルの心臓を用いて世界で初めて証明しました。今回の取り組みは、看護学群の学生と教員が主体となり、一貫して本学群内で行われた基礎研究成果です。
本研究成果は、2023年8月19日付けで英文雑誌(Journal of Veterinary Medical Science)に掲載されました。看護学群4年生の東沙耶さんは主体的に本研究に取り組んだため、桑名助手と共同で本英語論文の筆頭著者(even first author)となっています。 |
日常診療でよく遭遇する“高カリウム血症” とは
体の中に含まれるミネラル(電解質)の中でも、カリウムは、栄養素として欠かすことのできない必須ミネラルの一つと言われており、高血圧の大きな要因である塩分(ナトリウム)の排出を促す作用があります。そのため血圧を正常に保つ効果があるといわれており、切り干し大根やドライバナナ、刻み昆布などに豊富に含まれています。
一方で、例えば腎臓の働きが低下するなどして、体の外にカリウムを十分に排泄することができなくなると、カリウムが体内に蓄積し血液中のカリウム濃度が高くなります。これは、“高カリウム血症”とよばれ、医療現場でよく遭遇する水・電解質異常のひとつです。関連:「病態生理からひもとく水・電解質異常」(メヂカルフレンド社)
この“高カリウム血症”では、全身の筋力低下や脱力といった症状だけではなく、重篤になると、心室頻拍や心室細動などの致死的な不整脈が誘発されるため、緊急の治療が必要になります。近年では、生活習慣病のひとつとして、慢性腎臓病を合併する患者の数は年々増加しており、医療現場において高カリウム血症の患者を看る機会が多くなってきています。関連:病態生理にもとづき、高カリウム血症に対する新規治療法について
実臨床の現場では評価が難しい“高カリウム血症”重症例の心電図異常
高カリウム血症は、初期には無症状であるほか、悪心・嘔吐、全身倦怠感、筋力低下、しびれなどがみられることもありますが、いずれも特異的な症状ではありません。ただし、心電図上では早期から“テント状T波”とよばれるT波の増高が見られるため、診断のためには、心電図検査を迅速に行うことが有用であるとされてきました。ところが重症例の場合には、致死的な不整脈が起きる結果、発見されたときには既にショックや心停止を来してしまっている症例が多く、それに至る心電図異常の詳細までを十分に評価することができませんでした。
ウシガエルの心臓を用いて心電図異常の再現に成功
擬似病態モデルを活用し急性期における治療薬の効果まで明らかに
図1.高カリウム血症でおきる心電図変化(Azuma S, Kazama I et al. J Vet Med Sci 2023より)
今回の研究は、ウシガエルの心臓を活用して高カリウム血症の擬似病態モデルを作り、その“心電図異常のメカニズム”を再現し、解析を行ったものです。解析の結果、高濃度のカリウム投与により、T波の増高だけでなく、持続的なQRS幅の開大も見られることを明らかにしました(図1)。
高カリウム血症に対しては、インスリン(+ブドウ糖)の点滴のほか、重炭酸ナトリウムやβ2アドレナリン受容体作動薬による緊急治療も有効であるとされています。しかし、これらの薬の実際の効果については、これまで十分に検討されたことがありませんでした。今回、風間教授らは、重炭酸ナトリウムやβ2アドレナリン受容体作動薬(サルブタモール)の投与によって、肝臓や筋肉の細胞内にカリウムイオンを取り込む “ナトリウムカリウムポンプ(Na/K-ATPase)”が刺激され、高カリウム血症で生じる心電図変化(QRS幅の拡大)の回復過程が早められるメカニズムも明らかにしました(図2)。
医療・看護の現場では、必ずしも腎不全の患者だけではなく、最近では、痛み止めや降圧薬などの副作用や、災害現場におけるクラッシュ症候群(筋肉の挫滅)などを原因とする、高カリウム血症の患者に遭遇する機会も多くなってきました。本研究成果は, 迅速な診断・緊急の治療を行わなければ命の危険にさらされてしまう“高カリウム血症”に対する、新たな診断や治療の糸口を世界で初めて明らかにしたといえます。
風間教授は「今後も、臨床から発想した研究の成果を再び臨床に還元することを目標とし、日々研究に取り組んでまいります。学生さんでも教職員の方でも、一緒に研究をやってみたい人は、是非ご一報ください。在学中だけでも“研究者”になってみたい!学会で発表してみたい!論文の著者になってみたい!という人でも構いません。いつでもスタンバイしてお待ちしております」とのメッセージを寄せました。
連絡先メールアドレス:kazamai(a)myu.ac.jp ※メールの際は、(a)を@に変換ください。
研究報告の詳細について
なお、本研究成果は、2023年8月19日付けで英文雑誌The Journal of Veterinary Medical Scienceの電子版に論文として掲載されています(看護学群4年生の東沙耶さんが筆頭著者、風間教授は責任著者)。なお、これまで風間教授が本学看護学群の学生を指導しながら発表してきた研究成果については、以下の和文・英文雑誌に掲載されています。
- ウシガエル急性下壁心筋梗塞モデルにおける心電図変化のメカニズム
(本学看護学群学生が筆頭著者) - Amitriptyline intoxication in bullfrogs causes widening of QRS complexes in electrocardiogram
(本学看護学群学生が筆頭著者) - Cetirizine more potently exerts mast cell-stabilizing property than diphenhydramine
(本学看護学群学生が筆頭著者) - 第6波と第7波で新型コロナウイルス陽性の若年者における症状の比較
(本学職員・看護学群教員が共著者) - 若年者で新型コロナワクチン3回目接種後に起きる副反応の特徴―2回目接種後との比較―
(本学看護学群学生・教員が筆頭著者) - Subepicardial burn injuries in bullfrog heart induce ECG changes mimicking inferior wall myocardial infarction
(本学看護学群学生・教員が共著者) - Pyridoxine synergistically potentiates mast cell-stabilizing property of ascorbic acid
(本学看護学群学生が共著者) - 気管支喘息患者に対する水泳の有用性―エビデンスに基づく看護での実践指導へ―
(本学看護学群学生が筆頭著者) - Suppressing leukocyte Kv1.3-channels by commonly used drugs: A novel therapeutic target for schizophrenia?(本学看護学群・佐藤泰啓助教が筆頭著者)
- 若年者で新型コロナワクチン接種後に起きる副反応の特徴と病態生理にもとづく対処法の検討
(本学看護学群学生が筆頭著者) - Does immunosuppressive property of non-steroidal anti-inflammatory drugs (NSAIDs) reduce COVID-19 vaccine-induced systemic side effects? (本学看護学群学生が共著者)
- 宮城県で発生した新型コロナウイルス感染症患者の特徴 ─第 1 波 88 名の集計から見えた問題点と今後の課題─(本学看護学群学生が筆頭著者)
- Insulin accelerates recovery from QRS complex widening in a frog heart model of hyperkalemia
(本学看護学群学生が筆頭著者) - 高カリウム血症に対し大腸のカリウムチャネルをターゲットとした看護的介入
(本学看護学群・庄子美智子助教が筆頭著者) - デュシェンヌ型筋ジストロフィー女性保因者が発症するメカニズムと看護での実践
(本学看護学群学生が筆頭著者) - Catechin synergistically potentiates mast cell-stabilizing property of caffeine
(本学看護学群学生が筆頭著者) - 心電図検査における人為的ミスの発生と予防―ウシガエル心電図を用いた検討―
(本学看護学群学生が筆頭著者) - 麻疹に対するビタミンA補充療法の意義と看護現場での実践
(本学看護学群学生が共著者) - Reciprocal ST segment changes reproduced in burn-induced subepicardial injury model in bullfrog heart
(本学看護学群学生が共著者)
研究者プロフィール
・風間 逸郎(かざま いつろう):看護学群教授
病態生理学・内科学・一般生理学を専門分野としております。また、内科の医師として現在も患者さんの診療に携わる中での研究は、常に臨床からの発想に端を発しており、研究の成果を再び臨床に還元することを目標としてきました。そして、遺伝子レベルでの解析から、細胞、生体レベルでの解析まで行うことにより、ミクロの研究とマクロの研究とを結びつけることを常にこころがけています。
<参考>
- 高カリウム血症の心電図変化と急性期治療薬の効果を明らかに
- 急性下壁心筋梗塞で起きる心電図の“鏡像変化”のメカニズムを明らかに
- 新型コロナウイルス感染症の後遺症でおきる“ブレインフォグ”のメカニズムのひとつを報告
- 病態生理にもとづき、高カリウム血症に対する新規治療法について報告
- 三環系抗うつ薬(アミトリプチリン)中毒で起きる心電図変化とそのメカニズムを明らかに
- 新型コロナウイルス感染症の第6波と第7波における若年者の症状の特徴を明らかに
- 抗ヒスタミン薬による抗アレルギー作用の新たなメカニズムを明らかに
- 若年者における3回目の新型コロナワクチン接種後の副反応の特徴を明らかに
- 慢性腎臓病で新型コロナウイルス感染症が重症化するメカニズムのひとつを明らかに
- 風間研究室で「急性下壁心筋梗塞」で起きる心電図変化とそのメカニズムを証明
- 風間教授が卒業研究の学生と「ビタミン類が有する抗アレルギー作用」のメカニズムを解明
- 気管支喘息に対する水泳の有用性を明らかに
- 風間逸郎教授と佐藤泰啓助教が、統合失調症に対する新規治療法の可能性を明らかに
- 「第99回日本生理学会大会」/看護学群学生3名と助手1名も筆頭演者として発表
- 若年者における新型コロナワクチン接種後の副反応の特徴を明らかに
- 新型コロナワクチン接種後の“アナフィラキシー”に対する予防法を発見
- 新型コロナワクチン副反応に対する非ステロイド性抗炎症薬の有用性を明らかに
- 看護学群・風間研究室の学生が「高カリウム血症の心電図変化とそのメカニズム」を証明
- 風間教授・編集の『看護技術』10月増刊号「病態生理からひもとく水・電解質異常」発刊
- 病態生理にもとづき、高カリウム血症に対する看護的介入方法を発見
- マグネシウム過剰投与が引き起こす「高マグネシウム血症」心電図変化とそのメカニズム
- 宮城県における新型コロナウイルス感染症患者の特徴を明らかに/風間逸郎教授が学生と報告
- 女性が筋ジストロフィー(デュシェンヌ型)を発症するメカニズムを発見
- 風間研究室の学生が「カフェインやカテキンによる抗アレルギー作用」のメカニズムを証明
- 心電図検査における人為的ミスの発生と予防/ 風間逸郎教授が学生と報告
- 麻疹(ましん)に対する新規治療法の可能性と臨床現場での有用性/風間逸郎教授が学生と報告
- 新型コロナウイルス感染症の“後遺症”に対する治療法を発見/風間逸郎教授
- 風間逸郎教授が新型コロナウイルス感染症に対する新規治療法の可能性を発見
- 風間逸郎教授がアナフィラキシーに対する新規治療法を発見
- 風間逸郎教授が研究指導する学生達が「心筋梗塞でおこる心電図異常のメカニズム」を証明
- 風間逸郎教授が腎臓の線維化における新規病態メカニズムを発見