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23.12.06
看護学群・風間教授が「腎と透析」11月特集号で新型コロナウイルス感染症と慢性腎臓病についての総説を執筆/12月号では巻頭言も
看護学群に所属する風間逸郎教授は,腎臓専門医および日本腎臓学会の評議員としても活動しており,病態生理学や内科学のほか,腎臓生理学も専門分野としております。風間教授が『腎と透析』11月特集号「ホメオスタシスと腎臓」では総説を,続く12月号では巻頭言を執筆,東京医学社より発刊されましたのでその概要を紹介します。
腎と透析95巻5号(11月号)
本書は,腎臓専門医をはじめ,腎臓病・透析・腎移植などに携わる医療従事者や研究者を対象として,腎疾患の病態メカニズムから診断,治療,最新の研究成果に至るまで幅広く紹介・解説された総説集です。今回の特集号では,とくに腎臓の“ホメオスタシス(自律的調節機構)”に焦点を当て,それが破綻した場合に起きる病態や疾患について分かりやすく解説しています。臨床の現場や研究分野の最前線で,まさに今活躍中の全国の専門家たちが,各項の執筆を担当しています。
・出版元:東京医学社
・発行年月:2023年11月
※風間逸郎(看護学群教授)が各論で「上皮型ナトリウムチャネルとACE2受容体:新型コロナウイルス感染症を発症した慢性腎臓病患者の自律的防御機構」と題し総説を執筆
「ホメオスタシスと腎臓」について
“ホメオスタシス”とは“体の恒常性”ともよばれます。私たち生物に元々備わった,とても重要な性質で,ストレスなどの刺激や環境の変化を受けても,体の中の環境を一定に保とうとするはたらきのことをいいます。具体的には,気温にかかわらず体温を36度程度に保つ,体のなかに細菌などの異物がない状態を保つ,軽いけがをしたりかぜをひいたりしても時間が経てば健康な状態に戻る,塩分濃度や血糖値など体液の組成を一定に保つ,体内の水分量(体液量)を一定に保つ,などを指します。
新型コロナウイルスの侵入門戸だが,ホメオスタシスの維持にも重要な“ACE2受容体”
腎不全モデルを用いて,慢性腎臓病におけるACE2発現の意義を明らかに
図1:腎臓におけるACE2のはたらき(風間 「腎と透析」 2023より)
新型コロナウイルス感染症によるパンデミックが起きた際,一躍有名になったのが“ACE2(受容体)”と呼ばれるヒト細胞表面にある膜タンパク質です。このタンパク質は,新型コロナウイルスが体内に侵入するときの受け皿となり,新型コロナウイルス感染症が重症化する原因になりうると考えられました(図1)。ところがこのACE2が,腎臓においては体のホメオスタシスを維持する側面があることも分かってきました。
風間教授は,腎不全モデルラットの腎臓を使ってACE2受容体の発現を調べたところ,腎不全が重症化すればするほどACE2受容体の発現が増えることが分かりました(図2)。ACE2受容体は,腎不全悪化の原因となるホルモン(アンギオテンシンII)を分解するため,更なる腎不全の進行を防ぐ働きをします。これは,慢性腎臓病の患者に備わった“ホメオスタシス調節能力”であるとともに病気の進行を防ぐための自律的な防御機構であるといえるのです。
※生活習慣病のひとつとして増えている“慢性腎臓病”は,新型コロナウイルス感染症が重症化する基礎疾患のひとつであり,とくに末期腎不全で血液透析を受けている患者さんでは注意が必要であると言われています
ウシガエルの心臓を用いた“高カリウム血症”についての研究も
一方で,体に必須のミネラルであるカリウムの調節も,腎臓で主に行われるホメオスタシス調節のひとつであり,慢性腎臓病ではこれが破綻することにより高カリウム血症を合併しやすくなっています。「腎と透析」12月号の巻頭言では,本学看護学群・卒業研究の学生さんたちとウシガエルの心臓を用いた実験に取り組みながら,高カリウム血症で起きる心電図変化やそのメカニズム・治療法まで明らかにするなど,新しい発見を繰り返す日々について綴っています。(関連:卒業研究の4年生と風間教授ら「高カリウム血症の心電図変化と急性期治療薬の効果」を明らかに/看護学群)
増刊号の詳細について
「腎と透析」(東京医学社)11月増刊号は2023年11月末に発刊されました(12月号は12月末の発刊予定です)。なお,風間教授がこれまで発表してきた,本総説に関連する主な研究成果については,以下の英文雑誌に掲載されています。(いずれも風間教授が責任著者)
- Brain Leukocytes as the Potential Therapeutic Target for Post-COVID-19 Brain Fog | Neurochemical Research (springer.com)
- Targeting ACE2 as a potential prophylactic strategy against COVID-19-induced exacerbation of chronic kidney disease | Inflammation Research (springer.com)
- Potential prophylactic efficacy of mast cell stabilizers against COVID-19 vaccine-induced anaphylaxis | Clinical and Molecular Allergy | Full Text (biomedcentral.com)
- Does immunosuppressive property of non-steroidal anti-inflammatory drugs (NSAIDs) reduce COVID-19 vaccine-induced systemic side effects? (jst.go.jp)(本学看護学群学生が共著者)
- Stabilizing mast cells by commonly used drugs: a novel therapeutic target to relieve post-COVID syndrome? (jst.go.jp)
- Targeting lymphocyte Kv1.3-channels to suppress cytokine storm in severe COVID-19: Can it be a novel therapeutic strategy? (jst.go.jp)
- Sodium bicarbonate and salbutamol facilitate recovery from hyperkalemia-induced electrocardiogram abnormalities in bullfrog hearts (jst.go.jp) (本学看護学群学生が筆頭著者)
- Targeting colonic BK channels: A novel therapeutic strategy against hyperkalemia in chronic kidney disease (revistanefrologia.com) (本学看護学群教員が共著者)
- Insulin accelerates recovery from QRS complex widening in a frog heart model of hyperkalemia (jst.go.jp)(本学看護学群学生が筆頭著者)
研究者プロフィール
・風間 逸郎(かざま いつろう):看護学群教授
病態生理学・内科学・一般生理学を専門分野としております。また,内科の医師として現在も患者さんの診療に携わる中での研究は,常に臨床からの発想に端を発しており,研究の成果を再び臨床に還元することを目標としてきました。そして,遺伝子レベルでの解析から,細胞,生体レベルでの解析まで行うことにより,ミクロの研究とマクロの研究とを結びつけることを常にこころがけています。
<参考>
- 高カリウム血症の心電図変化と急性期治療薬の効果を明らかに
- 急性下壁心筋梗塞で起きる心電図の“鏡像変化”のメカニズムを明らかに
- 新型コロナウイルス感染症の後遺症でおきる“ブレインフォグ”のメカニズムのひとつを報告
- 病態生理にもとづき,高カリウム血症に対する新規治療法について報告
- 三環系抗うつ薬(アミトリプチリン)中毒で起きる心電図変化とそのメカニズムを明らかに
- 新型コロナウイルス感染症の第6波と第7波における若年者の症状の特徴を明らかに
- 抗ヒスタミン薬による抗アレルギー作用の新たなメカニズムを明らかに
- 若年者における3回目の新型コロナワクチン接種後の副反応の特徴を明らかに
- 慢性腎臓病で新型コロナウイルス感染症が重症化するメカニズムのひとつを明らかに
- 風間研究室で「急性下壁心筋梗塞」で起きる心電図変化とそのメカニズムを証明
- 風間教授が卒業研究の学生と「ビタミン類が有する抗アレルギー作用」のメカニズムを解明
- 気管支喘息に対する水泳の有用性を明らかに
- 風間逸郎教授と佐藤泰啓助教が,統合失調症に対する新規治療法の可能性を明らかに
- 「第99回日本生理学会大会」/看護学群学生3名と助手1名も筆頭演者として発表
- 若年者における新型コロナワクチン接種後の副反応の特徴を明らかに
- 新型コロナワクチン接種後の“アナフィラキシー”に対する予防法を発見
- 新型コロナワクチン副反応に対する非ステロイド性抗炎症薬の有用性を明らかに
- 看護学群・風間研究室の学生が「高カリウム血症の心電図変化とそのメカニズム」を証明
- 風間教授・編集の『看護技術』10月増刊号「病態生理からひもとく水・電解質異常」発刊
- 病態生理にもとづき,高カリウム血症に対する看護的介入方法を発見
- マグネシウム過剰投与が引き起こす「高マグネシウム血症」心電図変化とそのメカニズム
- 宮城県における新型コロナウイルス感染症患者の特徴を明らかに/風間逸郎教授が学生と報告
- 女性が筋ジストロフィー(デュシェンヌ型)を発症するメカニズムを発見
- 風間研究室の学生が「カフェインやカテキンによる抗アレルギー作用」のメカニズムを証明
- 心電図検査における人為的ミスの発生と予防/ 風間逸郎教授が学生と報告
- 麻疹(ましん)に対する新規治療法の可能性と臨床現場での有用性/風間逸郎教授が学生と報告
- 新型コロナウイルス感染症の“後遺症”に対する治療法を発見/風間逸郎教授
- 風間逸郎教授が新型コロナウイルス感染症に対する新規治療法の可能性を発見
- 風間逸郎教授がアナフィラキシーに対する新規治療法を発見
- 風間逸郎教授が研究指導する学生達が「心筋梗塞でおこる心電図異常のメカニズム」を証明
- 風間逸郎教授が腎臓の線維化における新規病態メカニズムを発見