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24.08.28

風間教授が高齢者でカリウム代謝異常症が起きやすいメカニズムのひとつを明らかに/看護学群

看護学群に所属する風間逸郎教授は、病態生理学・内科学・一般生理学を専門分野としており、内科の専門医として臨床にも携わっています。このたび、「高齢者でカリウム代謝異常症(高カリウム血症、低カリウム血症)が起きやすいメカニズム」を明らかにするための鍵となる知見を発見し、英文雑誌に報告しました。

日常診療でよくみられるカリウム代謝異常症(高カリウム血症、低カリウム血症)とは

体の中に含まれるミネラル(電解質)の中でも、カリウムは栄養素として欠かすことのできない「必須ミネラル」の一つです。体内のカリウムの量は、腎臓で再吸収、または尿中に排泄されることによって、通常は一定のバランスを保っています。
しかし、腎臓のはたらきが低下するなどして、カリウムの再吸収や排泄がうまくできなくなると、血液中のカリウム濃度が乱れてしまいます。この状態は “高カリウム血症”、または“低カリウム血症”とよばれ、医療現場でよく遭遇する水・電解質異常です。これらの電解質異常症では、全身の筋力低下や脱力といった症状だけではなく、重篤になれば、心室頻拍や心室細動などの致死的な不整脈が誘発されるため、緊急の治療が必要になります。

高齢者は、薬の副作用としてカリウム代謝異常症が起きやすい

高齢者はいくつかの慢性疾患を抱えている場合が多いため、日常的に複数の種類の薬を内服しているケースが多く見られます。しかし、日常診療でよく用いられる消炎鎮痛薬、降圧薬、利尿薬の中には、腎臓のはたらきに影響し、副作用として高カリウム血症や低カリウム血症を起こすものがあります。とくに高齢者では、これらの薬による影響を受けやすいため、若年者に比べて高カリウム血症や低カリウム血症を発症する頻度が高くなっています。

これまで、そのメカニズムについて詳しく調べられたことはありませんでした。

加齢マウスの腎臓の特徴から高齢者でカリウム代謝異常症が起きやすいメカニズムを発見

今回の研究では、モデルとして加齢マウスを用いました。加齢マウスの腎臓を詳しく調べたところ、加齢に伴い、腎臓の糸球体の硬化だけでなく、腎臓間質への炎症細胞浸潤に伴う線維化や尿細管の萎縮、細動脈の硬化といった所見も進行していくことが明らかになりました(図1)。また、炎症細胞(リンパ球)では、その活性化の引き金となるカリウムチャネル(Kv1.3)の発現が増えていくことも明らかになりました(図1)。

図1:加齢マウス腎臓における組織所見とKv1.3発現(Kazama I. Kidney Res Clin Pract 2024より)

※「リンパ球カリウムチャネル」とは、リンパ球の細胞膜上に数多く存在するカリウムチャネルのことを指します。リンパ球とは免疫細胞の一種で、細菌やウイルスなどの病原体に感染した細胞を攻撃したり、抗体を作ったりするほか、記憶した病原体にすばやく対応し、それらを排除するなどの機能を持ちます。カリウムチャネルとは、細胞膜に存在するイオンチャネルの一種で、ほとんどの細胞に存在し、カリウムイオンを選択的に通過させることによって、細胞としての機能を維持しています。

図2:高齢者の腎臓で高カリウム血症や低カリウム血症が起きやすくなるメカニズム(Kazama I. Kidney Res Clin Pract 2024より)

このような組織の変化は、腎臓の尿細管のはたらきに対して直接的または間接的に影響を及ぼすことから(図2)、高齢者の腎臓では既に、尿細管でカリウムを再吸収したり、尿中へ排泄したりするはたらきが低下している状態にあると考えられます。そのため、高齢者では若年者に比べ、薬剤による副作用の影響を受けやすくなっており、高カリウム血症や低カリウム血症を発症しやすいと考えることができます。

今後は、リンパ球Kv1.3の活性を抑える薬を投与するなど、加齢に伴う腎組織の変化を抑えることができれば、高齢者で高カリウム血症や低カリウム血症の発症を予防できるようになるかもしれません。

風間教授は今後も、臨床から発想した研究の成果を再び臨床に還元することを目標とし、日々研究に取り組んでまいります。学生さんでも教職員の方でも、風間教授と一緒に研究をやってみたい人(在学中だけでも“研究者”になってみたい人!)は、是非ご一報ください。いつでもスタンバイしてお待ちしております。
(kazamai(a)myu.ac.jp メールの際は(a)を@に変えてご連絡願います)

研究報告の詳細について

なお、本報告内容は、8月7日付けで、 英文雑誌(Kidney Research and Clinical Practice)の電子版に掲載されています。なお、これまで本学看護学群の学生を指導しながら発表してきた研究成果については、以下の和文・英文雑誌に掲載されています。

研究者プロフィール

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