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24.09.05
風間教授と看護学群4年生が「レモンやその成分による抗アレルギー作用」のメカニズムを解明/看護学群
看護学群の風間逸郎教授は、病態生理学・内科学・一般生理学を専門分野としており、主要な研究のひとつとして「アレルギー疾患や臓器の線維化における肥満細胞の役割」をテーマとした研究を行っています。このたび、風間教授が卒業研究指導をしている看護学群4年生の佐藤陽さん、菊田優羽さんが「レモンやその成分による抗アレルギー作用」のメカニズムを実験的に証明しました。今回の取り組みは、本学・看護学群の学生が主体となり、一貫して本学群内で行われた基礎研究成果です。
本研究成果は、2024年8月31日付けで英文雑誌(Cellular Physiology and Biochemistry)(IF:インパクトファクター 2.5)に掲載されました。2名の学生はともに主体的に本研究に取り組んだため、共同で本英語論文の“筆頭著者(even first author)”となっています。 |
従来のアレルギー疾患の治療法:抗ヒスタミン薬によりヒスタミンを抑える
私たちがよく耳にするアトピー性皮膚炎、花粉症、アレルギー性鼻炎・結膜炎、気管支喘息、食物アレルギーなどはアレルギー疾患と呼ばれます。アレルギー疾患の主役は、気道、鼻、眼などの粘膜に存在する肥満細胞とよばれる免疫細胞です。この肥満細胞は、ひとたび花粉やほこり、食べ物、薬などの刺激が加わると、ヒスタミンを含んだ大量の分泌顆粒を細胞外に放出し、気道、鼻、眼などの粘膜に作用して、いわゆるアレルギー症状(かゆみ、鼻汁、くしゃみ、気道の閉塞など)を引き起こします。従来の治療法は、放出されたヒスタミンのはたらきを抑える“抗ヒスタミン薬”によりアレルギー症状を緩和するものですが、今回の研究は、ヒスタミン放出前の段階、肥満細胞に刺激が加わった状態である“脱顆粒現象(エキソサイトーシス)”に着目しました。
レモンやその成分が、ヒスタミン放出前の段階である“脱顆粒現象(エキソサイトーシス)”を抑制することを明らかに
レモンは世界中で最もポピュラーな柑橘類のひとつで、栄養成分に富むことから食材としても広く利用されています。レモン果汁そのものや、果汁・果皮に含まれているクエン酸やビタミンC、ヘスペリジン、エリオシトリンには、抗酸化作用や抗がん作用、抗炎症作用に加え、アレルギー性鼻炎や気管支喘息の症状を抑えるはたらきがあるといわれますが、そのメカニズムなど、はっきりしたことは分かっていませんでした。
今回の研究では、ネズミの体内より採取した肥満細胞に対し、レモン果汁そのものや、果汁・果皮の成分であるクエン酸、アスコルビン酸(ビタミンC)、ヘスペレチン、エリオジクチオール(それぞれヘスペリジン、エリオシトリンの生体内代謝物)の存在下で、アレルギー症状を引き起こすヒスタミンの放出状態である脱顆粒現象を意図的に引き起こし、その程度を調べました。その結果、レモン果汁やその成分の濃度が一定値以上になったとき、その用量に比例して脱顆粒が抑制される、という結果が明らかになりました(図1)。
今回の結果により、レモン果汁やその成分は、放出されたヒスタミンのはたらきを抑えるというより、そもそも肥満細胞からの脱顆粒現象を直接抑えることによって抗アレルギー作用を発揮するメカニズムを(=肥満細胞安定化作用)、初めて明らかにしたといえます(図2)。さらに、同じ用量で比較した場合には、果汁に含まれるアスコルビン酸よりも、クエン酸や、果皮成分由来のヘスペレチンやエリオジクチオールの方が、この肥満細胞安定化作用が強いことも明らかになりました(図2)。
医療や看護の現場、日常生活における本研究成果の意義
今回の研究で調べたレモンの成分は、症状を軽減し、自然治癒能力を高めるような、いわゆる対症療法的な効果ではなく、根本的に肥満細胞からヒスタミンが放出される前の段階を抑えることが明らかになりました。つまり、いわゆる抗ヒスタミン薬よりも強力な抗アレルギー作用を発揮できる可能性があります。レモンは最もポピュラーな柑橘類のひとつであり、日常的に人々が摂取できるものです。果物として直接摂取するほかにも、ジュースや食材から間接的に摂取し、その量を調節することも容易なので、今回の発見は、医療や看護の現場はもとより、日常生活の中でもすぐに応用できるものであるといえます。
<参考>
風間教授は今後も、臨床から発想した研究の成果を再び臨床に還元することを目標とし、日々研究に取り組んでまいります。学生さんでも教職員の方でも、風間教授と一緒に研究をやってみたい人(在学中だけでも“研究者”になってみたい人!)は、是非ご一報ください。いつでもスタンバイしてお待ちしております。
(kazamai(a)myu.ac.jp メールの際は(a)を@に変えてご連絡願います)
研究報告の詳細について
なお、本研究報告は、2024年8月31日付けで英文雑誌(Cellular Physiology and Biochemistry)の電子版に掲載されています。なお、これまで本学看護学群の学生等を指導しながら発表してきた研究成果については、以下の和文・英文雑誌に掲載されています(いずれも風間教授が責任著者)。
- Sodium bicarbonate and salbutamol facilitate recovery from hyperkalemia-induced electrocardiogram abnormalities in bullfrog hearts(本学看護学群学生が筆頭著者)
- Prazosin potentiates mast cell-stabilizing property of adrenaline(東北大学大学院生が筆頭著者)
- 若年者で新型コロナウイルス感染後に長引く症状の特徴(本学看護学群学生が筆頭著者)
- ウシガエル急性下壁心筋梗塞モデルにおける心電図変化のメカニズム(本学看護学群学生が筆頭著者)
- Amitriptyline intoxication in bullfrogs causes widening of QRS complexes in electrocardiogram(本学看護学群学生が筆頭著者)
- Cetirizine more potently exerts mast cell-stabilizing property than diphenhydramine(本学看護学群学生が筆頭著者)
- 第6波と第7波で新型コロナウイルス陽性の若年者における症状の比較(本学職員・看護学群教員が共著者)
- 若年者で新型コロナワクチン3回目接種後に起きる副反応の特徴―2回目接種後との比較―(本学看護学群学生・教員が筆頭著者)
- Subepicardial burn injuries in bullfrog heart induce ECG changes mimicking inferior wall myocardial infarction(本学看護学群学生・教員が共著者)
- Pyridoxine synergistically potentiates mast cell-stabilizing property of ascorbic acid(本学看護学群学生が共著者)
- 気管支喘息患者に対する水泳の有用性―エビデンスに基づく看護での実践指導へ―(本学看護学群学生が筆頭著者)
- Suppressing leukocyte Kv1.3-channels by commonly used drugs: A novel therapeutic target for schizophrenia?(本学看護学群・佐藤泰啓助教が筆頭著者)
- 若年者で新型コロナワクチン接種後に起きる副反応の特徴と病態生理にもとづく対処法の検討(本学看護学群学生が筆頭著者)
- Does immunosuppressive property of non-steroidal anti-inflammatory drugs (NSAIDs) reduce COVID-19 vaccine-induced systemic side effects? (本学看護学群学生が共著者)
- 宮城県で発生した新型コロナウイルス感染症患者の特徴 ─第 1 波 88 名の集計から見えた問題点と今後の課題─(本学看護学群学生が筆頭著者)
- Insulin accelerates recovery from QRS complex widening in a frog heart model of hyperkalemia(本学看護学群学生が筆頭著者)
- 高カリウム血症に対し大腸のカリウムチャネルをターゲットとした看護的介入(本学看護学群・庄子美智子助教が筆頭著者)
- デュシェンヌ型筋ジストロフィー女性保因者が発症するメカニズムと看護での実践(本学看護学群学生が筆頭著者)
- Catechin synergistically potentiates mast cell-stabilizing property of caffeine(本学看護学群学生が筆頭著者)
- 心電図検査における人為的ミスの発生と予防―ウシガエル心電図を用いた検討―(本学看護学群学生が筆頭著者)
- 麻疹に対するビタミンA補充療法の意義と看護現場での実践(本学看護学群学生が共著者)
- Reciprocal ST segment changes reproduced in burn-induced subepicardial injury model in bullfrog heart(本学看護学群学生が共著者)
指導教員プロフィール
・風間 逸郎(かざま いつろう):看護学群教授
病態生理学・内科学・一般生理学を専門分野としております。また、内科の医師として現在も患者さんの診療に携わる中での研究は、常に臨床からの発想に端を発しており、研究の成果を再び臨床に還元することを目標としてきました。そして、遺伝子レベルでの解析から、細胞、生体レベルでの解析まで行うことにより、ミクロの研究とマクロの研究とを結びつけることを常にこころがけています。
<参考>
- 風間教授と4年生が「レモンやその成分による抗アレルギー作用」のメカニズムを解明
- 風間教授が高齢者でカリウム代謝異常症が起きやすいメカニズムのひとつを明らかに
- 第101回日本生理学会大会で看護学群4年生が学生ポスター賞を受賞「高カリウム血症の心電図変化と急性期治療薬の作用メカニズム」
- 若年者で新型コロナウイルス感染後に長引く症状の特徴を明らかに/看護学群・風間教授の指導の下、看護学群4年生と宮城大学事務局が共同で調査
- 高カリウム血症の心電図変化と急性期治療薬の効果を明らかに
- 急性下壁心筋梗塞で起きる心電図の“鏡像変化”のメカニズムを明らかに
- 新型コロナウイルス感染症の後遺症でおきる“ブレインフォグ”のメカニズムのひとつを報告
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- 三環系抗うつ薬(アミトリプチリン)中毒で起きる心電図変化とそのメカニズムを明らかに
- 新型コロナウイルス感染症の第6波と第7波における若年者の症状の特徴を明らかに
- 抗ヒスタミン薬による抗アレルギー作用の新たなメカニズムを明らかに
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