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25.04.09

看護学群4年生が日本生理学会の地方会賞を受賞、風間教授と英語論文としても発表/看護学群

看護学群の風間逸郎教授は、病態生理学・内科学・一般生理学を専門分野としています。また、内科の専門医として臨床にも携わっており、主な研究のひとつとして「妊娠ラットの腎臓におけるACE2発現と、その生理的・病的意義」をテーマとした研究も行っています。このたび、風間教授が研究指導を行った看護学群4年生の菊田優羽さん (2025年3月卒業)がその成果を発表し、日本生理学会の地方会賞(優秀賞)を受賞しましたのでお知らせいたします。

「本研究成果は、2024年11月に山形市で開催された第56回東北生理談話会(日本生理学会の地方会)において看護学群の菊田優羽さん (2025年3月卒業)が研究発表を行い、優秀賞を受賞した後、さらにその内容を深め、2025年4月5日付けで英文雑誌(Cellular Physiology and Biochemistry)(IF:インパクトファクター 2.5)に掲載されました。菊田さんは主体的に本研究に取り組んだため、本英語論文の筆頭著者(風間教授が責任著者)となっています。また、第130回日本解剖学会/第102回日本生理学会/第98回日本薬理学会合同大会(APPW2025、千葉)でも菊田さんが筆頭演者となり、その成果を発表しました。

妊娠時の母体における生理的変化のメカニズムを、“ACE2”の増加、から解き明かす

妊娠時には、体重の増加や子宮の増大など、母体にさまざまな生理的変化が現れますが、なかでも、全身を巡る血液の量、つまり“循環血液量”が増えることで体内水分量が増え、むくみなどが起きやすくなることが知られています(図1)。循環血液量のうち、腎臓に流れ込む血液の量を“腎血流量”とよびますが、そのうちさらに、腎臓の糸球体で濾過される血液の量は“糸球体濾過量(Glomerular Filtration Rate: GFR)”とよばれ、腎機能の指標としても用いられます。妊娠時には、全身の循環血液量とともに、腎臓で糸球体濾過量が大きく増加することが知られていますが(図1)、その詳しいメカニズムまではよく分かっていませんでした。
腎臓にはACE2とよばれるタンパク質が発現することが知られています。このACE2は細胞表面にある膜タンパク質であり、血管を収縮させるホルモン(アンギオテンシンII)を分解する替わりに、血管を拡張させる物質(アンギオテンシン(1-7))を作り出すため、強い血管拡張作用を発揮します(図2)。

図1:妊娠中の循環血液量や糸球体濾過量の変化(菊田、風間. 第102回日本生理学会大会(APPW2025)ポスター発表より) 

図2:ACE2のはたらき(菊田、風間. 第102回日本生理学会大会(APPW2025)発表より)

図3:妊娠にともなう腎臓のACE2発現の変化(Kikuta, Kazama. Cell Physiol Biochem 2025より引用)

そこで妊娠ラットの腎臓を使って、ACE2やアンギオテンシン(1-7)の発現を調べたところ、妊娠中は、腎臓の血管の拡張に伴ってこれらのタンパク質の発現が増えており、分娩後には、逆に減ることが分かりました(図3)。これらの変化が連動していたことから、妊娠時の腎臓におけるACE2発現の増加は、腎血管の拡張を促し、これにより糸球体濾過量が増加するメカニズムが考えられました。

妊娠時の腎臓におけるACE2の発現増加
新型コロナウイルス感染時には、逆に重症化の引き金になってしまう可能性も

図4:新型コロナウイルス感染時におけるACE2のはたらき(菊田、風間. 第102回日本生理学会大会(APPW2025)発表より)


一方で、ヒト細胞表面にあるACE2は、新型コロナウイルスが体内に侵入するときの受容体(受け皿)としても働きます(図4)。

この際、まず、ウイルス表面にある突起(スパイクタンパク質)がACE2と結合します。すると、このスパイクタンパク質が、同じく細胞表面にある蛋白分解酵素(TMPRSS2)に切断され、活性化します。その結果、ウイルスがヒトの細胞に侵入しやすくなり、感染が起こります。

図5:妊娠にともなう腎臓のTMPRSS2発現の変化(Kikuta, Kazama. Cell Physiol Biochem 2025より引用)

ACE2やTMPRSS2は、体中の多くの細胞に発現していますが、近年の報告によると、心不全、腎不全、慢性閉塞性肺疾患、気管支喘息などの基礎疾患のある人では、これらのタンパク質の発現が健常人に比べて大きく増えており、新型コロナウイルス感染症が重症化する引き金になることが分かってきました。 本研究では、妊娠ラットの腎臓を使って、ACE2に加え、TMPRSS2の発現も調べたところ、妊娠中はACE2と同様、TMPRSS2の発現も増えることが分かりました(図5)。
<参考> 
慢性腎臓病で新型コロナウイルス感染症が重症化するメカニズムのひとつを明らかに/看護学群・風間逸郎教授 

図6:妊娠時の腎臓におけるACE2の生理的意義と病的意義(Kikuta, Kazama. Cell Physiol Biochem 2025より引用)


このことから、妊婦さんが新型コロナウイルスに感染した場合、腎臓で発現が増加したACE2とTMPRSS2を介してウイルスが体内に侵入しやすくなり、サイトカインストームによる感染症の重症化や、急性腎障害の発症を招くメカニズムが考えられました(図6)。

妊娠時の腎臓におけるACE2の発現増加は、糸球体濾過量を増やし、腎機能を維持する生理的な意義がある反面、新型コロナウイルス感染時には、逆に重症化の引き金になってしまうという病的な意義もあると考えられました。 

風間教授は今後も、臨床から発想した研究の成果を再び臨床に還元することを目標とし、日々研究に取り組んでまいります。風間教授と一緒に研究をやってみたい人(在学中だけでも“研究者”になってみたい人!)は、是非ご一報ください。(kazamai(a)myu.ac.jp メールの際は(a)を@に変えてご連絡願います)

東北生理談話会について

日本生理学会は、体の基本的な機能と仕組みを解き明かす「生理学」に関する学術の進捗発展をはかっています。これにより、人類の健康増進の充実、病気の理解、 治療、 予防に貢献しており、会員数2500人超と規模が大きく、 歴史の古い学会です。東北生理談話会は日本生理学会の地方会で、毎年、東北地方の大学医学部を中心に開催されています。優秀賞は、本大会に参加した大学の数多くの学部生・大学院生の中から、優秀な演題発表を行った学生に送られる賞です。大学で生理学を専攻する生粋の研究者たちが数多く集まる学会で、本学看護学群の学生が本賞を受賞したことは、非常に大きな功績であると言えます。 

研究報告の詳細について

なお、本研究成果については、英文雑誌Cellular Physiology and Biochemistryの電子版に論文としても掲載されています(看護学群4年生の菊田優羽さんが筆頭著者,風間教授は責任著者)。 
これまで風間教授が本学看護学群の学生を指導しながら発表してきた研究成果については、以下の和文・英文雑誌に掲載されています。 

  • Lemon Juice and Peel Constituents Potently Stabilize Rat Peritoneal Mast Cells  cellphysiolbiochem.com/Articles/000723/ (本学看護学群学生が筆頭著者)   
  • 急性心筋梗塞で起きる鏡像変化についての実験的検討 cellphysiolbiochem.com/Articles/000723/ (本学看護学群学生が筆頭著者) 
  • 若年者で新型コロナウイルス感染後に長引く症状の特徴(本学看護学群学生が筆頭著者) 
  • Sodium bicarbonate and salbutamol facilitate recovery from hyperkalemia-induced electrocardiogram abnormalities in bullfrog hearts(本学看護学群学生が筆頭著者) 
  • ウシガエル急性下壁心筋梗塞モデルにおける心電図変化のメカニズム(本学看護学群学生が筆頭著者) 
  • Amitriptyline intoxication in bullfrogs causes widening of QRS complexes in electrocardiogram(本学看護学群学生が筆頭著者) 
  • Cetirizine more potently exerts mast cell-stabilizing property than diphenhydramine(本学看護学群学生が筆頭著者) 
  • 第6波と第7波で新型コロナウイルス陽性の若年者における症状の比較(本学職員・看護学群教員が共著者) 
  • 若年者で新型コロナワクチン3回目接種後に起きる副反応の特徴―2回目接種後との比較―(本学看護学群学生・教員が筆頭著者) 
  • Subepicardial burn injuries in bullfrog heart induce ECG changes mimicking inferior wall myocardial infarction(本学看護学群学生・教員が共著者) 
  • Pyridoxine synergistically potentiates mast cell-stabilizing property of ascorbic acid(本学看護学群学生が共著者) 
  • 気管支喘息患者に対する水泳の有用性―エビデンスに基づく看護での実践指導へ―(本学看護学群学生が筆頭著者) 
  • Suppressing leukocyte Kv1.3-channels by commonly used drugs: A novel therapeutic target for schizophrenia?(本学看護学群教員が共著者) 
  • 若年者で新型コロナワクチン接種後に起きる副反応の特徴と病態生理にもとづく対処法の検討(本学看護学群学生が筆頭著者) 
  • Does immunosuppressive property of non-steroidal anti-inflammatory drugs (NSAIDs) reduce COVID-19 vaccine-induced systemic side effects? (本学看護学群学生が共著者) 
  • 宮城県で発生した新型コロナウイルス感染症患者の特徴 ─第 1 波 88 名の集計から見えた問題点と今後の課題─(本学看護学群学生が筆頭著者) 
  • Insulin accelerates recovery from QRS complex widening in a frog heart model of hyperkalemia(本学看護学群学生が筆頭著者) 
  • 高カリウム血症に対し大腸のカリウムチャネルをターゲットとした看護的介入(本学看護学群教員が共著者) 
  • デュシェンヌ型筋ジストロフィー女性保因者が発症するメカニズムと看護での実践(本学看護学群学生が筆頭著者) 
  • Catechin synergistically potentiates mast cell-stabilizing property of caffeine(本学看護学群学生が筆頭著者) 
  • 心電図検査における人為的ミスの発生と予防―ウシガエル心電図を用いた検討―(本学看護学群学生が筆頭著者) 
  • 麻疹に対するビタミンA補充療法の意義と看護現場での実践(本学看護学群学生が共著者) 
  • Reciprocal ST segment changes reproduced in burn-induced subepicardial injury model in bullfrog heart(本学看護学群学生が共著者) 

 

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