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25.07.31

風間研究室で「マグネシウムの抗アレルギー効果とアナフィラキシー治療への有用性」を明らかに/看護学群

看護学群の風間逸郎教授は、病態生理学・内科学・一般生理学を専門分野としており、主要な研究のひとつとして「アレルギー疾患や臓器の線維化における肥満細胞の役割」をテーマとした研究を行っています。このたび「マグネシウムの抗アレルギー効果とアナフィラキシー治療への有用性」について実験的に証明しました。今回の取り組みは、看護学群の園部浩之助手や、研究指導した看護学群4年生(当時)とも協働し、本学・看護学群で一貫して行われた基礎研究成果です。

本研究成果は、2025年7月15日付けで英文雑誌(Cellular Physiology and Biochemistry)(IF:インパクトファクター 2.5)に掲載されました。

これまでのアレルギー疾患の治療法:服薬によりヒスタミンのはたらきを抑える

私たちがよく耳にするアトピー性皮膚炎、花粉症、アレルギー性鼻炎・結膜炎、気管支喘息、食物アレルギーなどはアレルギー疾患と呼ばれます。アレルギー疾患の主役は、気道、鼻、眼などの粘膜に存在する肥満細胞とよばれる免疫細胞です。この肥満細胞は、ひとたび花粉やほこり、食べ物、薬などの刺激が加わると、ヒスタミンを含んだ大量の分泌顆粒を細胞外に放出し、気道、鼻、眼などの粘膜に作用して、いわゆるアレルギー症状(かゆみ、鼻汁、くしゃみ、気道の閉塞など)を引き起こします。従来の治療法は、放出されたヒスタミンのはたらきを抑える“抗ヒスタミン薬”によりアレルギー症状を緩和するものですが、今回の研究は、ヒスタミン放出前の段階、肥満細胞に刺激が加わった状態である“脱顆粒現象(エキソサイトーシス)”に着目しました。

マグネシウムがヒスタミン放出前の段階である
“脱顆粒現象(エキソサイトーシス)”を抑制することを明らかに

マグネシウムは生命の維持に必要なミネラルで、豆類、種実類、魚介類、海藻類などの自然食品中に多く含まれ、カルシウムやリンとともに骨を形成したり、体内の様々な代謝を助けたりします。マグネシウムが不足すると、骨の形成が障害されるほか、筋肉の痙攣や心臓の不整脈などの症状が引き起こされます。最近では、マグネシウムの欠乏によりアトピー性皮膚炎を発症し、逆にマグネシウムの投与により、気管支喘息やアレルギー性鼻炎の症状が抑えられることが分かってきました。しかし、そのメカニズムなど、はっきりしたことは明らかになっていませんでした。

今回の研究では、ラットの体内より採取した肥満細胞に対し、マグネシウムの存在下で、アレルギー症状を引き起こすヒスタミンの放出状態である脱顆粒現象を意図的に誘発し、その程度を調べました。その結果、マグネシウムの濃度が一定値以上になったとき、その用量に比例して脱顆粒が抑制される、という結果が明らかになりました(図1)。これらの結果から、マグネシウムは、放出されたヒスタミンのはたらきを抑えるというより、そもそも肥満細胞からの脱顆粒現象を直接抑えることによって抗アレルギー作用を発揮するメカニズムを(=肥満細胞安定化作用)、初めて明らかにしたといえます。

図1 マグネシウムによる脱顆粒抑制

マグネシウムが、アナフィラキシーに対するアドレナリンの治療効果を増強する可能性も

アナフィラキシーとは、全身に強いアレルギー反応が起きる状態のことで、肥満細胞が過剰に活性化されることにより引き起こされます。放置すれば命に関わる危険な状態になるため、すぐにエピペン(アドレナリン)を筋肉注射して治療することが大原則です。アドレナリンは、肥満細胞からの脱顆粒を抑制することが知られますが、これまでの研究によれば、その効果は必ずしも十分とはいえませんでした。そこで本研究では、アドレナリンに高濃度のマグネシウムを添加した場合の、肥満細胞の脱顆粒に対する抑制効果についても調べたところ、アドレナリンを単独で使用した場合に比べ、マグネシウムを添加した場合の方が、脱顆粒現象が大きく抑制されました(図2)。

図2 アドレナリンの脱顆粒抑制に対するマグネシウムによる増強効果とメカニズム
(文献: Kazama I, Sonobe H et al. Cell Physiol Biochem 2025より引用)

これらの結果から、アナフィラキシーに対する治療では、アドレナリンにマグネシウムを併用することにより、治療効果が増強する可能性も示唆されました。本研究ではさらに、マグネシウムが脱顆粒現象を抑えるメカニズムのひとつとして、肥満細胞膜上に発現するイオンチャネルへのカルシウム流入に拮抗する可能性も示しました(図2)。

医療や看護の現場における本研究成果の意義

今回の研究で調べたマグネシウムは、症状を軽減し、自然治癒能力を高めるような、いわゆる対症療法的な効果ではなく、根本的に肥満細胞からヒスタミンが放出される前の段階を抑えることが明らかになりました。つまり、いわゆる抗ヒスタミン薬よりも強力な抗アレルギー作用を発揮できる可能性があります。マグネシウムは胃腸薬や下剤などの日常診療薬としても頻用されており、用量さえ調節できれば、医療や看護の現場でも応用可能であると考えられます。

    風間教授は今後も、臨床から発想した研究の成果を再び臨床に還元することを目標とし、日々研究に取り組んでまいります。学生さんでも教職員の方でも、風間教授と一緒に研究をやってみたい人(在学中だけでも“研究者”になってみたい人!)は、是非ご一報ください。いつでもスタンバイしてお待ちしております。
    (kazamai(a)myu.ac.jp メールの際は(a)を@に変えてご連絡願います)

    研究報告の詳細について

    なお、本研究報告は、2025年7月15日付けで英文雑誌(Cellular Physiology and Biochemistry)の電子版に掲載されています。なお、これまで本学看護学群の学生等を指導しながら発表してきた研究成果については、以下の和文・英文雑誌に掲載されています(いずれも風間教授が責任著者)。

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