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25.11.21

風間教授と看護学群4年生が「急性側壁心筋梗塞」で起きる心電図変化とメカニズムを明らかに/看護学群

看護学群に所属する風間逸郎教授は、病態生理学・内科学・一般生理学を専門分野としています。また、内科の専門医として臨床にも携わっており、主要な研究のひとつとして「心疾患の病態生理と心電図異常のメカニズム解析」をテーマとした研究も行っています。このたび、風間教授による指導の下、本学看護学群4年生が「急性側壁心筋梗塞でおきる心電図変化とそのメカニズム」を、ウシガエルの心臓を用いて証明しました。今回の取り組みは、看護学群4年生(齊藤愛奈さん、渡邉怜大さん、齋藤奈保子さん)が主体となり、協働しながら、一貫して本学・看護学群内で行われた基礎研究成果です。

本研究成果は、2025年10月付けで英文雑誌(Journal of Veterinary Medical Science)(オープンアクセス:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jvms/advpub/0/advpub_25-0352/_article/-char/en)に掲載されました。英文雑誌に発表した論文は、学生3名が共同の筆頭著者、風間教授が責任著者となっています。

症状が軽く見過ごされやすい「急性“側壁”心筋梗塞」とは

図1.急性側壁心筋梗塞(「病気がみえる② メディックメディア社」より改変」)

心臓を養う血管(冠動脈)に起こる動脈硬化により、心臓に血液が十分に行き渡らなくなり(虚血性心疾患)、その結果、心臓の筋肉が壊死まで起こしてしまった状態を“急性心筋梗塞”といいます。心筋梗塞は、迅速に診断して治療を行わないと命にかかわる大変危険な病気であり、症例の約半数は突然発症するといわれています。患者さんが病院に到着してから、 緊急で再潅流療法(閉塞した冠動脈の血流を再開させる治療)が開始されるまでの時間が遅れれば遅れるほど救命率が低下します。心臓の壁は、主に前側、横側、後ろ側、下側の部分から構成されますが、とくに横側の壁で心筋梗塞が起きた場合を、急性“側壁”心筋梗塞とよびます(図1)。急性側壁心筋梗塞の予後は、前側や下側の壁で心筋梗塞が起きた場合に比べると比較的よいとされていますが、逆に胸痛などの症状が軽いことが多いために見過ごされ、診断が遅れてしまうケースがあります。

急性心筋梗塞を診断するカギとなる“鏡像変化” とは

発症早期の心筋梗塞を迅速に診断するためには、心電図による検査が最も有用であるとされています。心電図検査は、患者に大きな負担をかけることなく、すぐに波形記録を確認できる検査です。急性心筋梗塞では、特徴的な心電図所見であるST部分の上昇がみられることが多いとされていますが、必ずしも急性心筋梗塞に限ったことではなく、他の心臓の病気(心筋炎、心膜炎、不整脈など)でもみられることがあります。しかし、心臓の広い範囲で心筋梗塞が起きた場合には、 “鏡像変化”とよばれるST部分低下の所見を伴うことが多いため、これがみられれば、その診断が確定的となります。風間教授らはこれまで、ウシガエルの心臓を用いた実験により、この鏡像変化が起きるメカニズムを明らかにしてきました。

<参考>

ウシガエルの心臓を用いて、急性側壁心筋梗塞の擬似病態モデルを作成

今回の研究では、ウシガエルの心臓を用いて、急性側壁心筋梗塞で起きるのと似た心電図異常を再現し、メカニズムの解析まで行ったものです。実験の結果、心臓の側壁部分を焼灼することにより、肢誘導(手足につけた電極による誘導)のI, aVLではST部分が上昇したのに対し、対側の肢誘導III, aVFでは逆にST部分が下降し、実際の急性側壁心筋梗塞に特徴的な心電図変化に加え、鏡像変化まで再現できることを明らかにしました。(図2)。本研究ではさらに、これらの心電図変化についての定量的な解析も行い、有意差まで明らかにしました(図2)。

図2.ウシガエル心臓で急性側壁心筋梗塞前後の心電図変化と、各誘導におけるST変化の定量的解析(Saito A, Watanabe R, Saito N et al. J Vet Med Sci 2025より引用)

急性側壁心筋梗塞で鏡像変化が起きるメカニズムについて

心筋梗塞では、傷害された心筋と正常の心筋との間で“傷害電流”とよばれる電流が発生します。これは、虚血におちいった心筋細胞では、細胞内にカリウムイオンを取り込む “ナトリウムカリウムポンプ(Na/K-ATPase)”の働きが障害され、正常の心筋細胞との間に膜電位差が生じるためです。

急性側壁心筋梗塞モデルでは、主に拡張期に生じる傷害電流が、肢誘導のI、aVLから見れば、遠ざかる方向へ向かうために心電図の基線が下がり、相対的にST部分が上昇すると考えられました(図3)。

これに対し、傷害された心筋と反対側に位置する電極から見れば、傷害電流の向きは逆になるため、対側のIII, aVF誘導では逆に、ST部分が相対的に下降し、鏡像変化が生じると考えられました(図3)。

 

図3:急性側壁梗塞で鏡像変化が生じるメカニズム(Saito A, Watanabe R, Saito N et al. J Vet Med Sci 2025より引用)

医療や看護の現場における本研究成果の意義

看護師にとって、心電図で起きる変化のメカニズムを理解することは、目の前の患者さんの中で起きていること(病態生理)を理解し、病気を診断するための強力な武器になりえます。特に、急性心筋梗塞の心電図で鏡像変化が見られた場合には、原因となっている閉塞した冠動脈の責任病変まで推定できることもあります。したがって本研究成果は、急性期の医療・看護の現場で、急性心筋梗塞をより迅速に診断し、的確な治療につなげられるようにするための糸口を明らかにしたと言えます。

看護学群 齊藤愛奈さんコメント

急性心筋梗塞は命に関わる疾患であり、急性期の対応は極めて重要です。中でも急性側壁心筋梗塞は心電図変化が乏しく、見逃されることも少なくありません。今回の研究ではウシガエルの心臓を用いて急性側壁心筋梗塞モデルを作成し、心電図変化との比較を行い、臨床で重要となる波形を再現することができました。実験を通して心電図の理解が深まるとともに、波形変化の意味やその理由を明らかにしていく過程で、心電図を理解し病態のつながりを正しく捉えられることは、初期対応や看護を行ううえで欠かせない基盤であると実感しました。卒業研究発表会や学会発表では、この実験から得られた知見を看護とのつながりや臨床で活かせる視点とともに、分かりやすく伝えられるよう丁寧に準備を進めていきたいと考えています。

研究報告の詳細について

なお、本研究成果は、2025年10月16日付けで英文雑誌(Journal of Veterinary Medical Science)の電子版に論文として掲載されています。本論文は、看護学群4年生(齊藤愛奈さん、渡邉怜大さん、齋藤奈保子さん)が共同の筆頭著者、風間教授が責任著者となっています。これまで風間教授が本学看護学群の学生(または教員)を指導しながら発表してきた研究成果については,以下の和文・英文雑誌に掲載されています。

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