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25.12.26

風間教授と看護学群4年生が「高カリウム血症で起きる心電図変化とメカニズム」を明らかに/看護学群

看護学群に所属する風間逸郎教授は、病態生理学・内科学・一般生理学を専門分野としています。また、内科の専門医として臨床にも携わっており、主要な研究のひとつとして「心疾患の病態生理と心電図異常のメカニズム解析」をテーマとした研究も行っています。このたび、風間教授が研究指導をしている看護学群4年生(渡邉怜大さん、齊藤愛奈さん、齋藤奈保子さん)が、「高カリウム血症で起きる心電図変化とそのメカニズム」をウシガエルの心臓を用いて証明しました。

本研究報告は、12月26日付けで「医学と薬学」2026年1月号(自然科学社)に原著論文として掲載されています。看護学群4年生が “ウシガエルの心臓を用いた高カリウム血症の心電図・活動電位変化の観察―看護の現場における有用性―” をテーマとした卒業研究を行うにあたり、風間教授がその指導を行いまとめたものです。今回、和文雑誌に発表した論文では、看護学群4年生が筆頭著者となっています。

 <参考>

放置すれば命にかかわる “高カリウム血症” とは

カリウムは、生野菜や果物・海藻類・豆類・イモ類など多くの自然食品に含まれ、人体に必須のミネラルです。カリウムは、食事により摂取された後、体内では主に筋肉や肝臓などの細胞内に蓄えられ、腎臓からの尿中排泄によって調節されています。従って、食品からカリウムを大量に摂取した場合や、慢性腎臓病がある場合、外傷後のクラッシュ症候群により筋肉が挫滅した場合などに、血液中のカリウム濃度が高くなり、高カリウム血症とよばれる状態になります。高カリウム血症を放置すると、心臓で致死的な不整脈を発症し、心停止に至る場合があります。従って、それを防ぐためには、不整脈の前段階で見られる特徴的な心電図変化から高カリウム血症を早期に診断し、迅速な治療を開始することが重要になります。

    ウシガエルの心臓を用いて、高カリウム血症の病態モデルを作成

    今回の研究では、ウシガエルの心臓を用いて、高カリウム血症で起きるのと似た心電図異常を再現し、メカニズムの解析まで行ったものです。実験の結果、塩化カリウム溶液の投与によって心電図波形のT波が尖鋭化し、いわゆる“テント状T波”とよばれる所見が得られました(図1)。

    図1:ウシガエル心臓で高カリウム血症を誘発前後の心電図変化(渡邉、齊藤、齋藤、風間ら「医学と薬学」2026より引用)

    また、高濃度の塩化カリウム溶液の投与によって心電図波形のQRS幅が大きく開大し、やがて心停止に至りました(図2)。このとき、これらの心電図変化に伴い、個々の心筋細胞における活動電位の波形も変化しました(図1,2)

    図2:ウシガエル心臓で高カリウム血症を誘発前後の心電図変化(渡邉、齊藤、齋藤、風間ら「医学と薬学」2026より引用)

    高カリウム血症で心電図が起きるメカニズムについて

    心電図上で心室の興奮(脱分極)を示すQRS波は、心筋細胞における活動電位の第0相に、興奮の消褪(再分極)を示すT波は第3相に、それぞれ対応します(図3)。高カリウム血症では、細胞外カリウム濃度の上昇によって静止膜電位が上昇します。これにより心筋細胞内へのナトリウムの流入が抑えられ、第0相の立ち上がりが緩徐になる結果、心電図上ではQRS幅が開大すると考えられました(図3)。一方、細胞外へのカリウムの流出が促され、第3相の傾きが急峻になる結果、心電図上ではT波が尖鋭化すると考えられました(図3)。

    図3:高カリウム血症で起きる心電図変化とメカニズム(渡邉、齊藤、齋藤、風間ら「医学と薬学」2026より引用)

    医療や看護の現場における本研究成果の意義

    わが国では、人口の高齢化に伴う慢性腎臓病患者数の増加や、ポリファーマシーに伴って生じる薬剤の副作用を背景に、高カリウム血症に遭遇する機会が増えています。看護師を含む医療従事者が、高カリウム血症で起きる特徴的な心電図変化やそのメカニズムを理解し、所見を正しく判読できるようにしておくことは、本症の早期診断・治療のために重要です。また、高カリウム血症を発症するリスクの高い基礎疾患を有する患者に対しては、適切な生活・食事指導や教育を行っていくための根拠にもなりえます。

    看護学群4年生-渡邉怜大さんコメント

    高カリウム血症は不整脈や心停止のリスクを伴う重要な病態であり、急性期における迅速で正確な心電図判断が求められます。今回の研究ではウシガエルを用いて高カリウム血症モデルを作成し、QRS幅やT波などの特徴的な心電図変化を明確に捉えることができました。実験を通して、心電図波形の変化を正しく読み取るための理解が深まったと感じています。また、近年の日本では慢性腎臓病などの慢性疾患を有する方が増えており、高カリウム血症を起こしやすい背景があります。本研究で得られた知見は、急性期での初期対応に役立つだけでなく、日常的な食事指導や生活指導の根拠になり得ると考えます。今後の卒業研究発表会や3月の学会発表では、研究成果を看護とのつながりとともに分かりやすく伝えられるよう、丁寧に準備を進めていきたいと思います。

    研究報告の詳細について

    なお、本研究報告は、12月26日付けで「医学と薬学」2026年1月号(自然科学社)の電子版に掲載されています。なお、これまで本学看護学群の学生等を指導しながら発表してきた研究成果については、以下の和文・英文雑誌に掲載されています(いずれも風間教授が責任著者)。

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